「いっそ死んでくれた方が…」依存症招き、家族を苦しめるカジノの闇 見通せぬ対策の実効性

カジノを含む統合型リゾート(IR)の開業に向け、準備を本格化させている大阪府と大阪市。ただ、IRを巡ってはさまざまな課題が指摘され、とりわけ懸念されているのがギャンブル依存症だ。府市は依存症対策にも取り組むが、現時点では、実効性が見通せない。ギャンブル依存症は金銭面も含めて周囲を巻き込むだけに、実際に苦悩した家族からは「誰もが当事者になりうる病。啓発や対策が追い付いていないのでは」と懸念の声も上がっている。
借金立て替えなどに2千万円
「いっそ息子が死んでくれた方が楽になるのかもしれない」。大阪府内に住む60代の女性は、ギャンブルにのめり込んだ20代の長男について、思いつめた数年をそう振り返った。長男は窃盗を繰り返して数回逮捕され、今も勾留中だ。
2年前、突然女性や夫、親族に、息子が金を借りたヤミ金業者などから執拗(しつよう)な電話がかかってくるようになった。
何に使ったのか。何度聞いても長男は答えない。世間体を気にする夫は大事にならないよう、何度も金銭面での援助を繰り返した。「息子のことを信じたい」。女性らはその一心だったという。
その思いもむなしく、長男は換金する目的でキャンプ道具を盗んで逮捕され、執行猶予期間中の半年後には再び窃盗容疑で逮捕された。それでも借金が止まらないため通帳を確認したところ、インターネットカジノにのめりこんでいることが発覚。通っていた医療機関で偶然ギャンブル依存症の自助グループの案内を見つけ、依存症の存在を初めて知ったという。
再び執行猶予はついたものの、長男は変わらなかった。自助グループも「俺はあそこにいる人たちとは違う」と、数回通っただけ。この春には再び窃盗容疑などで逮捕された。
夫がこれまでに立て替えた費用は借金や弁護士費用を含め2千万円ほど。長男は自己破産した後も借金を重ねた。
なぜギャンブルにはまってしまったのか。女性の記憶にあるのは、長男が大学生の頃に学生ローンで数十万円を借りていたことだ。問いただすと、大阪・ミナミの闇カジノに先輩に連れて行ってもらったと話したという。女性は「そのときにカジノの楽しさを知ってしまったのかもしれない。誰がはまるのか分からない怖さがある」と話す。
長男を巡って対立した夫とは別居。長男との向き合い方について悩む日々だ。
自助グループ、医療機関につながるのは一握り
ギャンブルにのめりこんでしまった家族への対応に悩む人は多い。NPO法人「全国ギャンブル依存症家族の会大阪」の上野郁子さん(61)はメンバーとともに、家族らの相談窓口を設けるなど、数年にわたり活動を続けてきた。
家族の会は全国36都道府県にあり、府内では大阪市と堺市の2拠点。いずれも月に1度、勉強会や体験談を話す場を設け、依存症の正しい知識や対応を学ぶほか、継続的な支援も行っている。
上野さんにも、自身の息子がパチスロにはまって悩んだ過去がある。ギャンブル依存症は「特別な病気じゃない。早期の対処が必要だ」と強調。さらに周囲の偏見や誤解で当事者や家族も孤立しがちだ。「間違った対応で悪化させないためにも、若年層から正しい知識の普及、啓発を進めていく必要がある」と話す。
一方で、当事者は自分が依存症だと認めず、いつでもギャンブルは止められると思ってしまう。医療機関や自助グループなどへつなげようとしても拒否されることが多いといい、つながり続けることができるのは一握り。何度も繰り返してようやく、というケースが多いという。
上野さんは「依存症から回復し続けるには、各地域で受け皿となる社会資源や支援者を育てていく必要がある」と訴える。
開業に向け対策を強化
依存症対策は政府も注視しており、府市による整備計画を4月に認定した際には、ギャンブル依存症について実効性のある対策に取り組むよう注文をつけた。認定を受け、対策も本格化している。
府市は5月、IR開業までの設置を目指す、相談から治療までを行う拠点「大阪依存症センター(仮称)」についての初会合を開き、具体的な機能の議論を始めた。
6月からは、IR事業者の依存症対策に助言できるよう、医療関係者や支援団体などの専門家ら9人をアドバイザーに任命した。
また、若年層への普及啓発を強化しようと、今年度から府内すべての高校の教員を対象に、ギャンブル依存症など依存症についての研修を行う。これまでは限られた学校だけで外部講師が授業を行っていたが、教員が直接指導できるようになれば、より柔軟な対応が期待できるという。
府は昨年11月に依存症の当事者や家族の支援に充てる対策基金も設置し、寄付を呼びかけている。府市は今後も事業者と連携しながら、必要に応じて依存症対策を進めていく方針で、これらの実効性を示せるかが注目されている。(北野裕子)