全国で相次いだ強盗事件に絡み、警視庁捜査1課は29日、京都での事件を「ルフィ」と名乗り指示したとして、強盗容疑で、今村磨人(きよと)被告(39)=特殊詐欺に絡む窃盗罪で起訴=を逮捕した。一連の広域強盗での指示役の逮捕は初。今村容疑者はルフィのほかに「刃牙(ばき)」などの4つのアカウントを使い、京都事件などの実行役に指示していたことも判明。捜査1課は関係する4府県警と連携し強盗でも指示役の解明を進める。
逮捕容疑は、昨年5月2日午後、ほかのメンバーと共謀し、京都市中京区の時計店で高級腕時計41点(計約6920万円相当)を奪ったとしている。今村容疑者は逮捕時に「全く身に覚えがない」と容疑を否認していたが、その後の調べには黙秘しているという。
京都事件では、これまでに実行役や換金役、レンタカー調達役ら計13人が摘発されている。今村容疑者が交流サイト(SNS)上で「高額報酬」をうたう闇バイトでメンバーを募り、応募した若者らに、秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」を使うよう求め、身分証なども送らせていた。
それぞれに犯行場所やレンタカー、用具の購入などを指示。捜査関係者によると、今村容疑者は京都事件で、実行役リーダーにはルフィと名乗り、レンタカー調達役には刃牙のアカウントを使っていた。奪った時計(一部)の運搬役にもルフィとして指示していた。
都内で換金した約1350万円のうち約100万円は昨年5月11~13日の間に3回に分け、自身名義の口座に送金させていた。同時期に、当時、今村容疑者が収容されていたフィリピンの入管施設周辺で、ほぼ全額が引き出されていたという。
一方、関係者の証言などから、今村容疑者が複数の携帯電話を使い、ルフィや刃牙のほか、ミツハシ、Kingの名前を、事件ごとに使い分けていた疑いも判明。捜査1課は、関係する4府県警と連携し、京都事件を含めた主な全国7件の指示系統解明を急ぐ。
他事件の指示役特定 難航
全国で相次いだ一連の広域強盗事件は、今年1月に東京都狛江市で起きた強盗致死事件を契機に、「ルフィ」や「キム」などと名乗る指示役がフィリピンに滞在しているとみられることが判明。現地で拘束されていた特殊詐欺グループの幹部だった今村磨人容疑者ら男4人が携帯電話を使い、実行役らに現地から遠隔で指示を出していた疑いが浮上した。
今年2月、その4人が日本に送還された後、警視庁は特殊詐欺に絡む立件を重ね、並行して「ルフィ」らの指示による強盗事件が発生した府県警と、逮捕された実行役の供述調書や押収した携帯電話などの証拠品に関する情報を共有。携帯電話のやりとりの解析や供述をつなぎ合わせるなどし、4人のうちの誰が各強盗事件を指示していたのかといった特定作業を続けた。
犯行には一定時間が過ぎるとメッセージが自動で削除される秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」が使われ、押収した携帯電話の解析は難航を極めている。こうした中、京都事件については関係者の証言に加えて、ルフィの指示を受けた男が今村容疑者名義の口座に送金し、容疑者名義のキャッシュカードで金が引き出されていたことなどの証拠から、今村容疑者がルフィだと特定した。
一方、狛江事件の指示役のキムは、送還された4人のうちの1人である渡辺優樹被告(39)とする情報があるほか、藤田聖也(としや)被告(39)の指示事件も浮かんでいる。ただ、4人はそれぞれ複数のアカウント名を使い分けていた可能性が高く、今後、他の事件解明にも、実行役らの証言と証拠を積み上げながらの複雑で地道な捜査が続く見通しだ。(王美慧、内田優作)