2025年大阪・関西万博の開幕まで間もなく1年9カ月となる中、海外の国・地域が独自に手掛けるパビリオンの建設工事が始まらない。参加国側は日本国内の業者と工事契約を結び「建設許可」を大阪市に申請する必要があるが、3日時点で申請はゼロ。大阪府の吉村洋文知事からの支援要請を受けて政府も対策に動き出す中、想定スケジュールに基づけば準備に「黄信号」がともりつつある。
「万博事業を進めていくため、建設業界の協力を得られるよう後押ししていただきたい」
関係者によると、吉村氏は5月29日、官邸で岸田文雄首相と面会し、国を挙げて海外パビリオンの建設を支援するよう要請した。首相は「早速、関係省庁に指示する」と回答。万博の運営主体である日本国際博覧会協会の6月14日の理事会では、政府から関係省庁に対策を講じるよう指示があったことが報告された。
吉村氏が支援を要請したのは、海外パビリオンのうち参加国側が独自に手掛ける「タイプA」の建設が進んでいないためだ。協会が建てた施設を参加国側が借り受ける「タイプB」や、複数国などで施設を共同使用する「タイプC」と異なり、タイプAでは参加国側がゼネコンと契約し、工事の段取りをつける必要がある。
万博への参加を表明している150超の国・地域のうち、タイプAは米国や中国、ドイツ、オランダなど約50カ国・地域が見込まれている。
協会は4月上旬からタイプAの国・地域に対し、会場となる人工島・夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)の敷地の引き渡しを始めた。協会が作成したガイドラインでは、令和6年7月中に建設工事を終え、7年1月に内装を含めて仕上げるスケジュールを想定している。
大阪市計画調整局によると、建築基準法上、万博関連施設の建設に必要な「仮設建築物許可」の申請は今月3日時点で0件。新型コロナウイルス禍で準備の出足が遅れたことや、ロシアによるウクライナ侵略に伴う資材価格の高騰などが影響しているとみられる。
市側では、申請後速やかに許可を出すため万博関連施設向けの基準を作成。通常は申請から許可を出すまで約3カ月かかるところを1カ月半~2カ月程度に短縮できるという。とはいえ許可が出た後も設計図面の適否などをチェックする手続きがあり、現時点で申請を出しても着工できるのは今年9月前後になる見通しだ。想定スケジュールでは建設工事終了まで1年を切る計算になる。
こうした状況の中、日本建設業連合会の宮本洋一会長(清水建設会長)は6月22日の記者会見で「本当に(建設が)間に合うのか」と懸念を示した。
タイプAの工事受注を検討する大手ゼネコンの関係者も準備状況が「すでに後ろにずれ込んでいる」と明かす。「図面を見なければどんな発注になるかが分からず、開幕までに間に合うかどうか判断できない」としながらも「各国が威信をかけるタイプAは凝ったデザインになることが予想され、時間とマンパワーを要するのは間違いない」と漏らした。
加えて、国内の建設業界は、6年4月から従業員の時間外労働時間の上限が制限される「2024年問題」に直面している。現場の人繰りが逼迫(ひっぱく)する恐れもあり、先のゼネコン関係者は「万博は、より厳しい条件下での準備になるのではないか。状況次第で、発注に手を挙げない可能性もある」と話した。