日本を動かすエリートたちの街、東京・霞が関から、官僚の人事情報をいち早くお届けする名物コラム「 霞が関コンフィデンシャル 」。月刊「文藝春秋」2023年7月号より一部を公開します。
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★官邸官僚たちの夏
今夏の霞が関人事では、官邸スタッフの去就にも注目が集まる。焦点の一つは宇波弘貴首相秘書官(平成元年、旧大蔵省入省)が財務省に返り咲くかどうかだ。
岸田文雄政権発足時に秘書官に起用された際、実は「1年で古巣に戻す」との口約束が交わされていた。その言葉通り、昨夏に首席秘書官・嶋田隆氏(昭和57年、旧通産省)が、「将来の財務次官」と目される官房長ポストに宇波氏を据えようと財務省に打診。すると、当時の矢野康治事務次官は、宇波氏と同期で、統括審議官だった小野平八郎氏を昇格させる人事案を投げ返す。矢野案では、宇波氏は後任の統括審議官。「小野―宇波」の序列が確定することを危ぶんだ嶋田氏は、宇波氏の人事自体を凍結した。
だが、当の小野氏が昨年5月に電車内で暴行事件を起こし、あえなく更迭。現在の青木孝徳官房長(平成元年、旧大蔵省)は「緊急登板」との位置付けだ。
今夏の人事で茶谷栄治次官(昭和61年)が続投すれば宇波氏が官房長で出戻り、青木氏は主税局長に起用されるはずだ。茶谷氏交代の場合は新川浩嗣主計局長(62年)が次官に昇格、宇波氏が一気に主計局長に抜擢されるシナリオも描かれる。
ただここに来て「異次元の少子化対策」が政権の最重要課題に急浮上した。今後3年間で毎年3兆円程度の財源確保に向け社会保障改革は不可避だ。
そこで岸田官邸で制度見直しを切り回せるのは「社会保障畑に精通した宇波氏しかいない」(財務省筋)と、にわかに続投論も強まる。
宇波氏が交代する場合の秘書官候補には、吉野維一郎秘書課長(平成5年)、八幡道典主計局総務課長(6年)、一松旬企画担当主計官(7年)と、厚労担当主計官経験者の名が挙がる。
一方、一足先に交代が決まったのは首相長男の岸田翔太郎政務秘書官だ。
外遊先での観光疑惑には同情する向きもあったが、首相公邸での宴会騒ぎは政府与党内からも批判的な声が大勢を占めた。更迭すれば後継者の立場自体が危ぶまれるため首相は防戦の構えだったが、かばいきれなかった。
★消費増税のキーパーソン
財務省の茶谷次官と新川主計局長とのコンビは「まれに見る安定感」(次官経験者)とされ、財政規律への逆風が自民党内で吹き荒れても、茶谷次官の粘り腰によって省内を落ち着かせている。
2人とも若いころから次官候補と目されてきた。昨年末、防衛費の増税を決められなかったものの、具体案を議論する時期を1年後に素早く切り替えたのは鮮やかだった。
岸田政権が意気込む少子化対策でも財源が焦点で、消費税増税が茶谷、新川コンビの頭をよぎるのは当然のことだ。だが、これは「首相にとって最大のタブー。安倍派が絶対認めない」(自民党幹部)というのが、定説となっている。
そうはいっても毎年度の予算を数兆円規模で膨らませる大型政策の財源がいくつもあるわけではない。茶谷氏の側近は「次官が考えているのは10年後の予算と税制だ。消費税が最大の焦点であることは間違いない」と言い切る。
将来の消費増税に向けて、エース・宇波氏に加え、主計・主税局を経験している坂本基主計局次長(平成3年)の存在も見逃せない。菅義偉氏の政務秘書官だった同期の寺岡光博主計局次長と次官レースを競うが、消費税の議論を再起動させるキーパーソンであるのは間違いない。
消費増税に再びチャレンジする時に最も必要なのは、秘書官候補にも名前が挙がった吉野氏の決断力かもしれない。若手の頃から、相手が局長でも官房長でも、臆することなく主張をぶつけてきた。
いまは「死んだふり」だが、省内では「次の消費税政局はこれまでと同じ轍は踏まない」(主計局幹部)と、多種多様なプランが検討されている。
★混迷する次官人事
今夏の外務省の人事異動は他主要省庁から遅れて、8月にまでずれ込むと見られている。森健良事務次官(昭和58年)の後任人事が難航しているからだ。
次官レースで依然有力視されているのは山田重夫外務審議官(61年)だ。山田氏は、3月の岸田首相のウクライナ電撃訪問に続き、G7サミットにおいて、ウクライナのゼレンスキー大統領のサプライズ来日の仕切り役も担った。
一方で、ここにきて首相周辺で別の名前が急浮上している。
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「 霞が関コンフィデンシャル 」全文は「文藝春秋」2023年7月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2023年7月号, 2023年7月号)