時刻は昼下がり、人影まばらな埼玉県草加市の駅前にあるビジネスホテル。その日、チェックアウト時刻の午後1時を過ぎても、客が出てくる気配が全くない静かな部屋があった。
不審に思ったホテルの従業員が意を決して扉を開けると、目の前にはタオルを顔に巻きつけられ、手足をヒモで縛られた女性が横たわる奇怪な光景が広がっていた。女性はすでに息をしていなかった――。
タオル巻かれ窒息死、容疑者は「死亡させてはいない」
埼玉県警は今年5月15日にホテルの客室で、大塚由美子さん(44)の身体を拘束するなどの暴行を加えたうえで死亡させたとして、住所不定無職の冨岡勇容疑者(39)を傷害致死の疑いで逮捕した。司法解剖の結果、大塚さんの死因は明確にはわからなかったものの、遺体の状態などから窒息死の可能性が高いとみられる。社会部記者が解説する。
「大塚さんは1泊5000円強のビジネスホテルにあるダブルベッドの客室で発見されました。遺体はユニットバス近くの床に、ヒモで縛られた状態で放置されています。部屋には他に誰もいませんでしたが、大塚さんは部屋を2人分で予約していました。発見前日の14時半から23時半過ぎまで部屋で一緒に過ごしていたとみられるのが冨岡容疑者です」
逮捕された冨岡容疑者の供述はこうだ。
「2人は別々の時間にチェックインし、冨岡容疑者だけがひとりでホテルを出ています。千葉県内のマンションにいるところを捜査員が発見し、逮捕しました。冨岡容疑者は警察の調べに対し、部屋に一緒にいたことまでは認めたものの、『部屋を出る時には大塚さんが生きている姿を見ており、死亡させてはいない』と容疑を否認しています」(同前)
「実は、冨岡容疑者は結婚していて……」
ビジネスホテルの密室で一体何が起きたのか。なぜ大塚さんはタオルが顔に巻きついた奇妙な姿で発見されたのか。死亡に至る経緯について、捜査の詰めはこれから行われるという。その一方で、2人がホテルの一室でともに時間を過ごしていた理由について、捜査関係者はこう声を潜める。
「実は冨岡容疑者は結婚していて家庭があったようで、状況からみて事件のあった現場で不倫していたものと思われます。2人は数年前に知り合っており、関係は長期にわたっていたようです」
事件現場から約20km離れた千葉県松戸市の住宅街に、大塚さんが生まれ育った古びた賃貸アパートがある。彼女はここで父と2人で暮らしていたのだという。近隣住民の男性が語る。
「あのお宅はひっそりと静かに暮らしてらっしゃいますよ。お仕事なのかお付き合いなのか、たまに夜なのに娘さんがひとりで出かける姿を見かけることがありましたけどね。以前はお母さんと買い物に出かけていく姿も見たけど、最近めっきり見なくなりました。男の人どころか、友達を家に呼んでいるのも見たことがありません。真面目でおとなしいお嬢さんだと思ってたけど」
被害者の父「びっくりして何も言えなかった」
不倫からはおよそかけ離れたイメージだったと近隣住民らが声をそろえる。共に暮らしていた父の目に娘はどう映っていたのか。仕事から帰ってきた大塚さんの父親に心境を聞くことができた。
「事件のあった日、私は朝6時に仕事に出ていったんです。まだ娘は寝ていたかな。とにかく、それが娘を見た最後でした。その日、どこかに出かけるという話は全く聞いていませんでした。埼玉の草加なんて場所にも心当たりはない。そもそも冨岡の名前なんて警察から聞くまで一度も聞いたことがなかったし、彼氏うんぬんの浮いた話を家ですることが全くなかった。だから事件翌日の夕方、警察官が来た時はびっくりして何も言えなかった」
大塚さんはこの賃貸アパートで土木関係の会社を経営する父母のもとで生まれ育ち、地元の公立小中学校を卒業。その後、千葉県流山市にある県立高校に進学した。卒業後、大学や専門学校に進学することはなく、パートなどの仕事を転々としていたという。大塚さんには4歳上の姉がいたが、結婚して家を出ている。1年前までは父と母、大塚さんの3人で暮らしていた。父が言葉を続ける。
「去年、妻が病気で亡くなってからは娘と2人で住んでいた。料理とか掃除とか身の回りの世話は娘がこなしてくれてた。とにかく真面目な子だったよ。娘は7年前ぐらいから、輸入で仕入れた馬肉を商品用に小さく切り分ける作業員の仕事をしていて、夜勤で働いているんです。私は長く自分で会社をやってたけど、最近は仕事が少なくなったんで友人の会社で働かせてもらっていて、家を出るのは朝早く。一緒に住んでいるけど生活の時間帯は別々だったし、娘が何をやっているのかあまり知らない。いい歳した女だもの。いちいち干渉したりはしないよ。買い物とかそれなりの趣味はあったようだけど、子供の頃から外で遊び回るよりは、家で本を読んだりと静かに過ごしていることが多かったね」
「まさか娘とこんな別れ方をするなんて……」
妻に先立たれ、一緒に暮らす娘も非業の死を遂げた。背中の丸くなった大塚さんの父親は、最後に悲痛な言葉を残して玄関を閉めた。
「由美子と妻は仲が良くて、小さい頃は遊園地に行ったりしてたよ。働きはじめてからは、もらった給料でファミリーレストランとか回転寿司に連れて行ってくれたりもした。いい娘でした。優しい子だった。妻が死んでからは娘が面倒見てくれてたけど、これから先が大変だよ。でも生きていかなきゃいけねえからな……。まさか娘とこんな別れ方をするなんて、思ってもみなかったよ。なにもかも、さっぱりわからねえんだよ」
つましく暮らしていた父と娘に訪れたあまりにも急な別れ。冨岡容疑者と大塚さんの間に一体なにがあったのか。独り生きていくことを強いられることになった父親は、真実を知りたがっている。
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