教員不足が深刻化する中、各地の教員採用試験で、志願者の奪い合いが加速している。合格後の取得を条件に、教員免許を持たない社会人らに門戸を開く自治体も相次ぐ。採用した教員の質をどう高めるのか、課題を指摘する声も出ている。(教育部 松本将統、宇田和幸)
「学校の忙しさはニュースなどで知ってはいるが、教員に憧れてきた。免許なしでも受験できると聞いて、チャンスだと思った」
9日に実施された山口県教育委員会の「特別選考枠」試験を受けた介護施設職員の男性(30)は、志望動機をそう語った。
新設された特別選考枠は教員免許を持たない大学と短大の既卒者と、免許取得予定がない来春の卒業見込み者が対象だ。採用予定5人に対し、20~50歳代の57人が応募した。合否は適性検査と面接で判定される。合格者は通信制大学などで2年かけて教員免許を取り、2026年4月に着任する。山口県の今年度試験の志願倍率は2・5倍と、過去最低となった。県教委教職員課は「門戸を広げ、多様な人材を集めたい」と話す。
こうした「後から免許」採用は、埼玉県や福岡県などでも今年度から導入した。民間企業で勤務歴がある人らを対象とし、合格後に教員免許を取得してもらう。
大阪市やさいたま市は大学での研究歴や、研究機関や企業に勤務した経験を持つ人向けの採用枠を新設した。合格者は教職課程を修了して教員免許を取る必要はなく、府・県教委からの「特別免許」で教壇に立つ。
教員採用試験は一般的に、7~8月に1、2次試験、9~10月に合格発表の日程で行われる。民間企業や他の公務員試験よりも遅く、教員志望者が流出しているとされてきた。文部科学省は24年度実施の採用試験から、日程を前倒しする改革案を示している。さらに早め、大学3年生の「囲い込み」を狙う自治体も多い。
東京都や千葉県・千葉市、富山県などは今年度から、1次試験に限って大学3年生の受験も可能とした。合格すれば、大学4年生では、教育実習や2次試験に集中することができ、受験生の負担軽減につながる。
横浜市と川崎市は大学3年生の特別枠を用意した。学校推薦を受けた3年生には1次試験を免除し、2次のみを課す。民間企業への就職活動が本格化する3年生の10月にいち早く「内定」や「内々定」を出す。
現在の教職課程では、4年制大卒で1種免許、短大卒で2種免許を取れる。2種は1種に比べて必要な単位数が6割程度と少なく、文部科学省は4年制大学でも2種が取れる特例を導入する方向で検討している。
ただ2種免許では教科指導や生徒指導などを学ぶ時間が限られており、学校着任後のミスマッチを心配する声もある。埼玉県の公立小の校長は「教員への適性は時間をかけて見極めるべきだ。現場理解が不十分なままだと、学校のさまざまな問題に対応できないのでは」と心配する。都内の公立中校長は「志願者のすそ野を広げることは必要だが、先生の『粗製乱造』につながらないような手立てが必要だ」と指摘する。
「後から免許」採用の合格者に対して、山口県は免許取得にかかる学費を年26万円まで補助すると決めているが、学校着任に向けた研修については「これから具体的に検討する」という。さいたま市も「これまでの職場と学校は大きく違う」とし、授業見学などの機会を設けたいとしている。
◆教員免許=教職課程を修了した人の「普通免許」、優れた経験を持つ人向けの「特別免許」などがある。普通免許は専門性が高い方から専修、1種、2種に区分される。2種は高校では教えることができない。正規教員になるには、免許を取り、自治体の採用試験に合格する必要がある。
公立小 倍率最低2・5倍…「働き方改革不可欠」指摘も
2022年度採用試験の倍率は、公立小学校で最低の2・5倍まで落ち込んだ。大量採用世代が退職期を迎えた一方で、志願者が減っているためだ。忙しい学校現場の「ブラック」なイメージが広がったことなどが、減少の要因となっている。
小学校で35人学級が段階的に導入されていることや、特別支援教育を受ける子が増えていることなどから、少子化の中でも必要な教員数は大きくは変わっていない。そのため、今後も各自治体が教員志願者を奪い合う状況は続きそうだ。
教員採用に詳しい東京学芸大の浜田豊彦副学長は、「志願者を増やそうという工夫は必要だが、自治体ごとの努力では限界がある。国が『働き方改革』をしっかりと進め、学校の職場としての魅力を取り戻すことが不可欠だ」とする。