襲われた時に相手の攻撃を防ぐ「ターゲットマーク入りの盾」、風で飛散する小石やガラス片から目を守る「アイガード内蔵型ヘルメット」……。一体どこで売られている便利グッズかと思いきや、実はこれ全て福岡県警の警察官が、警察官のために考案した新たな装備品の数々だ。アイデアの源泉は「現場で悩む同僚の切実な声」だという。
「的があると、人はそこに狙いを定める」――。2017年にノーベル経済学賞を受賞した米シカゴ大のリチャード・セイラー教授らが提唱した行動経済学に基づく「ナッジ理論」。この理論を利用して相手の動きを誘導できれば、警察官の身を守りやすいのではないか。そう考え、県警刑事総務課の課員たちが考案したのが「受傷事故防止対策盾」だ。
透明な盾の中央に「ターゲットマーク」と呼ばれる大きな二重丸の的を描いた。凶器を持った相手が的を目がけて攻撃してくる可能性が高まり、警察官が負傷するリスクを軽減できるという。
マークは、興奮を鎮める効果があるとされる青色で描くなど細部にもこだわった。既存の盾にマークを描いたシールを貼るだけで出来上がり、課員たちは「安く、簡単な改良で実用化できる。仲間の受傷事故を一つでも未然に防ぎたい」とアピールした。
これは7月11日、福岡市博多区の県警本部であった県警の「装備資機材開発改善コンクール」の一場面。コンクールは社会情勢の変化に対応した警察装備の開発・改善を目的に1987年から始まり、34回目の今回は「県民に警察活動を広く知ってもらおう」と審査の様子が初めて報道陣に公開された。
この日の最終審査では応募作品107点のうち、事前の予備審査を通過した10点について考案者がプレゼンテーションをした。いずれも現場警察官の「あったらいいのに」との思いを形にしたものばかりだ。
「高速道路での交通整理は、車の風圧でガラス片やプラスチック片が飛んできて危険です。そこで――」。県警高速隊の隊員2人が紹介したのは「アイガード内蔵型ヘルメット」。内部に備え付けたゴーグルを引き出し、両目をガードする。眼鏡をかけた状態でも上からかぶせて使用できる。
他には、装着したままでもスマートフォンを操作できるように指先部分を加工した警察活動用の手袋、金属アレルギーのある容疑者に手錠を掛ける際に肌を保護できる長袖護送服なども紹介された。
最終審査の結果、最高賞に輝いたのは装備課装備係長の下川順一警部補(59)が考案した「磁石付き警笛」だった。
警笛は雑踏警備や交通整理などに当たる地域課や交通課の警察官にとって必需品。紛失しないように長さ約50センチのひもを制服の胸元のフックに引っかけるが、使用後に胸ポケットにしまわないと、ひもが垂れ下がり、体に絡みつく。交通取り締まりの際、垂れ下がった警笛が市民の車に当たり、ひやりとした警察官も少なくないという。
下川警部補はゴルフでグリーン上に置くマーカー(目印)に注目。プロゴルファーがマグネット入りのマーカーを使い、移動中は磁力を利用して帽子のつばに乗せているのを見て「これだ」とひらめいた。警笛に磁石を、警察官の制服の胸ポケットに金属プレートを仕込み、簡単に着脱できるようにした。
見た目は地味な逸品だが、審査委員長を務めた県警の坂口彰総務部長は「ちょっとしたアイデア、実用化しやすい簡単な改良で利便性を向上させた」と高く評価した。
24年3月で定年退職となるため、今回が最後の応募作品となる下川警部補は「原動力は、現場で聞いた多くの同僚たちの声。何とか力になりたいとの思いだった」とを緩ませた。
県警は今後、試作品をつくるなど実用化を視野に検討するとしている。【近松仁太郎】