甲府市の貴金属店で13日に高級腕時計が奪われた事件。山梨県警の捜査で、強盗容疑で逮捕された4人の行動が明らかになってきた。犯行を指示した人物や、奪った時計の回収役の存在も浮かび上がり、県警は通信記録の解析や防犯カメラの収集を進めている。捜査幹部は「実行犯だけでなく、組織全体を明らかにしていく」と語る。
「警察にはつかまらないから」。逮捕された男の一人は、指示役からそう言われたと話した。報酬は数十万円の約束だったという。
この事件で強盗容疑で逮捕されたのは静岡県の無職の男(42)、いずれも栃木県の、職業不詳の男(22)、とび職の男(20)、ブラジル国籍の派遣社員の男(20)の4容疑者。
捜査関係者によると、3人が店に押し入り、とび職の男が見張りをした。
4人は13日午前10時頃に店付近に集まり、約1時間待機。3人が午前11時の開店直後にバールや刃物を持って押し入った。ショーケースをたたき割り、1分間ほどで腕時計24点(計約2283万円相当)を奪った。
4人は事件発生から約1時間半で確保された。決め手となったのは、防犯カメラの映像だった。
事件後、2人は走って車に向かい、残る2人はバイクで逃げ、現場周辺で合流。車にバイクを積み、JR石和温泉駅(笛吹市)に移動した。3人は東京方面の特急に乗車。無職の男は車を運転して離れた。
山梨県警は、現場付近の防犯カメラの映像から車を発見。映像ではナンバーも識別でき、追跡された男は車を降りて逃げ、現場から約4キロの甲府市桜井町のブドウ畑で緊急逮捕された。
運転していた男は「3人を駅で降ろした」と説明。石和温泉駅のカメラには3人の姿が映っており、特急に乗車したのも特定した。車内で3人の身柄が確保された。
男らは盗まれた腕時計の一部を持っていたが、ほとんどが見つかっていない。バッグに詰め、逃走中に現場付近の道路脇に置いたというが、既になくなっていた。
一部の男は、秘匿性の高い通信アプリ「シグナル」で指示を受けていたが、メッセージは消されてしまっているという。県警は腕時計を持ち去った回収役がいるとみて足取りを追うと共に、勧誘や計画立案を行う指示役がいたとみて、組織の実態解明を進めている。
「動線管理」で被害防止を
立正大の小宮信夫教授(犯罪学)は、大きな組織の犯行では、特定の店に狙いを定め、情報を収集してから犯行に及ぶ「ピンポイント強盗」が増えていると指摘する。「何が売られていて、警備体制はどうか、などの情報を基に『闇バイト』で募集をかけ、応募した人が強盗するのが主流の手口だ」という。
被害を防ぐには、高級品までの「動線管理」が重要で、「玄関から真っすぐ高級品まで行けるルートは最悪だ」と強調。入り口付近についたてや安価な品物を置くなどして、下見に来た犯人に「面倒くさい店」だと思わせることが必要だとした。