認可外保育園 不十分な立ち入り調査 「保育環境まずい園でも生き残れる」と識者が警鐘 指導監督基準満たさない施設は4割に

[検証 保育事故](6)
本島南部の認可外保育園に6月、「立ち入り調査」の通知が来た。国が年1回の実施を定めている調査で、保育士の数が指導監督基準を満たしているかや、乳幼児の健康管理状況、消防設備などを行政が確認する。
園に届いたのは、およそ1カ月後の調査を告げる内容だった。救急箱の整理、使用期限が切れた消火器の買い直し、棚の上に置いてある物の移動-。指導されるであろう項目を書き記すと、メモ用紙があっという間に埋まった。
「理想の保育をしてみたい」と、園長が認可園から独立して開いた園で、基準よりも1人多く保育従事者を配置し、安全な保育環境を心がける。
立ち入り調査の必要性は十分理解している。だが正直なところ、日頃の保育が優先で、調査項目の「小さなこと」は通告を受けてから改善しているという。
立ち入り調査は児童福祉法に基づく。認可外園の運営が適正かを行政が確認する唯一ともいえる手段だ。県は、業務移管している那覇市と宮古島市以外の市町村にある約350施設を、調査員5人で回る態勢を取ってきた。
が、県内では2018年度から、およそ半数の認可外保育施設で調査ができていない。担当する臨時職員の不足や、新型コロナウイルス禍で実地調査の機会が制限されたためで、子どもの安全を守る「頼みの綱」は危うくなっている。
指導監督基準を満たしていない県内の認可外園は23年4月時点で173施設と全体の4割に上る。こども家庭庁によると、22年に全国で起きた保育事故は過去最多の2461件。うち5件は死亡した事案で、行政監査の重要性は一層増している。
県内でも昨年7月、那覇市の認可外園で生後3カ月の乳児がうつぶせに寝かされ、死亡する事故が起きた。県は23年度、調査員を5人から6人に増員。年度末までに「全施設を回る」と説明する。
立ち入り調査が徹底されていない実情に加え、認可外園は国の基準を満たす認可園と異なり、行政への届け出だけで開設できる。態勢が手薄でずさんな保育環境の園もあり、保育施設での死亡事故の約7割が認可外園で発生している。
保育事故の遺族や研究者らでつくる「保育の重大事故をなくすネットワーク」の岩狹(いわさ)匡志(ただし)共同代表は「年1回の立ち入りでは全く足りず、抜き打ちでの調査も必要。保育環境がまずい園も生き残れる現状がある以上、チェックを厳しくしなければならない」と問題視する。
児童福祉法施行令が改正され今春からは、立ち入り調査に例外が認められ、年1回という原則が緩和された。岩狹さんは「保育の質をさらに悪化させないか。認可施設を充実させて受け入れを増やしていかないと、子どもを守ることができない」と警鐘を鳴らす。
(保育事故取材班・嘉数よしの、矢野悠希)

(写図説明)県の立ち入り調査の通告を受け、園長が書き記した「やるべきことリスト」=7月、本島南部の認可外保育園
(写図説明)県内の認可外保育施設