「企業風土を一新するため辞任することと致します」
保険金の不正請求疑惑に揺れる中古車販売大手のビッグモーター。7月25日に開いた記者会見の冒頭、兼重宏行社長はこう述べて辞任を表明した。
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ビッグモーターの社風が生んだ異常な不正
売上高7000億円の業界最大手が危機に瀕している。
「会見でも明らかにされましたが、不正疑惑が明るみに出て以降、同社の売上は半減したといいます。新規の出店も白紙に戻さざるを得ない状況で、社長の辞任を機に抜本的な経営計画の見直しが行われるはずです」(経済部記者)
客から預かった車両に傷をつけ、保険金を水増し請求するという異常な不正は、ビッグモーターの社風が生んだと10年以上勤めるA氏は言う。
「おかしくなったと感じたのは2017~18年頃。ちょうど息子の宏一が副社長として、実権を握った時期です。ある営業の社員が彼の気に障ったんでしょう、その上司である店長に『県外に飛ぶか、辞めるか選ばせといてください』と言ってるのを聞きました。それが聞こえた周りの人間にすれば脅迫ですよ。副社長の勘気に触れたら、次は我が身ですから」
その日のうちに異動辞令が出たことも
利益至上主義が徹底され始めたのもこの時期だった。特に“環境整備点検”と呼ばれる幹部らによる店舗視察は、各店舗を点数化し、その成績次第で従業員のボーナスを決める制度。社内の力関係が如実に出るシステムだった。
「“環境整備”で副社長がウチの店舗に来た際、各社員の成績を示すホワイトボードを見て『〇〇さんは数字作れてないからこの店舗には必要ないですね。北海道で!』とひと言。その日のうちに異動辞令が出たこともありました。副社長の取り巻きは、そんな理不尽を諫める素振りすらありませんでした」(元社員のB氏)
『死ね』や『殺すぞ』といった暴言は日常茶飯事
25日の会見で、兼重社長は息子ともども経営から退くと明かした。だが。
「ビッグモーターは非公開会社。株は兼重一家の資産管理会社が100%持ち続けることになります。会見では『経営に影響力を行使することは考えていない』と言っていましたが、ほとぼりが冷めればいつでも社長の座に返り咲くことは可能です」(前出・経済部記者)
同社の内情を知る元社員のC氏も、社風の一新は容易ではないと見る。
「幹部に限らずおかしな人だらけですから。『死ね』や『殺すぞ』といった暴言は、ここでは挨拶と同じです」
C氏は店舗での買取業務を担っていたが、報道されているような不正に携わったことがある。
「査定中の客にバレないよう、こっそりボディにエルボーをかまして傷を広げたりしてました。今思えば大変なことをしていたんですが、当時は数字をとるため、これくらいは普通だと思い込んでました」
業務上のミスは従業員の自腹で補填
常識外れの労働環境の告発は枚挙に暇がない。
「出勤時間に1分でも遅れると1000円の罰金。その後も10分ごとに1000円ずつ積み重なります。集まった罰金は“ユニセフ貯金”と悪趣味な名前で呼ばれ、LINEで『〇〇から1000円のご寄付頂きました』と報告されます。普通の会社じゃありえませんよね」(現役社員D氏)
業務上のミスは、従業員の自腹で補填される。
「査定ミスで高めに引き取った車は、後から担当者や店長が車ごと買い取るケースもありました。高額査定の噂は社内中に広まり、出世に響きますから。170万円の車を自腹で買い取って、査定ミスをなかったことにした社員もいましたよ」(前出・C氏)
ビッグモーターが生まれ変わるための修理代、安くなさそうだ。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2023年8月3日号)