岸田文雄首相が夏休み用の本に、村上春樹の新作『街とその不確かな壁』(新潮社)を買ったと知り、春樹ファンとしてはうれしくなった。筆者もまだ半分くらいまでしか読んでないが、世捨人のような主人公が、初恋の少女の思い出に浸りながら「他人の夢を読む」という、いかにもハルキっぽい小説だ。日本の最高権力者がこの本を読んで何を思うのか、感想を聞いてみたい。
さて、岸田首相の夏休みは、15日の戦没者追悼式などの公務の合間を縫って、10冊の本を読んだり、ゴルフをしたりして英気を養っているのだが、「秋以降の政局」についても思いをこらしていることだろう。
最初の関門は、9月11~13日の間に行われるとみられる内閣改造・自民党人事。焦点は、①河野太郎デジタル相の交代②木原誠二官房副長官の交代③小渕優子元経産相ら女性抜擢(ばってき)―の3つだ。
自民党の麻生太郎副総裁の発言を読む限り、河野氏は交代のようだが、小渕氏の党4役などへの抜擢については異論もあるようだ。
問題は、木原氏の処遇だ。文春報道については、木原氏が日弁連に人権救済の申し立てをしており、筋としては残すべきだとは思う。だが、ここまでいろいろ書かれると、さすがに職務続行は難しいかもしれない。
内閣改造というのは、メディアが「これで支持率が上がるかも」と毎回煽るのだが、筆者にはその理由がよく分からない。支持率は政治家が行った結果に対して、それを国民が評価すれば上がるものではないのか。
「改造すれば支持率が上がる」と、政治家や政治記者が信じているとすれば、それは国民をバカにしているのではないかと思うのだ。
直近の内閣支持率は、時事通信が4ポイント減の27%、NHKが5ポイント減の33%で、あまり解散したくなるような数字ではない。もし、岸田側近の誰かが、「この低い支持率を派手な改造で上げて解散だ!」などと、のんきなことを考えているのなら、やめた方がいいと思う。
正直言って、岸田政権には安倍晋三政権ほどのキレはない。木原氏への文春砲や、自民党女性局の仏ウキウキ研修旅行など、突っ込みどころも満載だ。だが、安全保障やエネルギー政策への取り組みを見る限り、最近30年間の歴代政権に決して劣らない安定感があると思う。
これから秋にかけて与党内から早期解散圧力がかかるが、「今はその時にあらず」だろう。解散したら政権は失わなくても議席はかなり減るのではないか。内閣改造などの「飛び道具」に頼らず、地道に政策を実現して国民の支持を得た方がいいと思う。 (フジテレビ上席解説委員)