スバルとトヨタ、資本提携強化でどうなるのか?

9月27日、SUBARU(スバル)とトヨタ自動車は、それぞれ両社の資本提携合意を発表した。

トピックは株式の相互保有にある。従来トヨタが所有していたスバルの株式比率を、16.83%から20%に引き上げる。もとより筆頭株主であったトヨタの議決権は3.17%増加して20%に増強されるとともに、スバルはトヨタの連結決算対象会社になる。なお株式の調達は、市場買い付けまたは相対取引を通じた買い付けとなる。

同時にスバルは、トヨタが取得するスバル株の金額と同等の株式を取得予定だ。

このニュースで留意すべきは、スバルがトヨタ株を取得することだ。トヨタを中核にダイハツ、スバル、マツダ、スズキの5社からなるトヨタアライアンスでは、すでにマツダとスズキが株式の相互持ち合いによってトヨタ株を取得しているが、マツダが取得するまでトヨタは他社に出資することはあっても、自社株を他社に持たせることは歴史上なかった。

スバルは、マツダ、スズキと並んでトヨタアライアンスにおいて、最恵国待遇を得たことになる。なお、ダイハツは、トヨタが全株式を取得し、すでに100%子会社となっている。つまり今回のスバルの株式相互保有によって、トヨタアライアンスの資本提携は一応の完結を迎えたことになる。

CAFE規制への対応
そもそも株式の相互保有が意味するのは、他人から身内への大きな立場の転換だ。トヨタがもうかればその配当が得られるのでマツダ、スズキ、スバルにも利益がもたらされるし、トヨタが損をすれば損をする。一蓮托生(いちれんたくしょう)になることで、相互信頼が深まり、ただの提携では踏み込めない領域での提携が進むことになる。

さて、一連の資本提携において、トヨタが与えるものは割と明確だ。リリースにも書かれている通り、CASE領域の技術がその核になる。特に厳しさを増すCAFE規制の中で、トヨタの持つHV(ハイブリッド)技術の存在は大きい。

目前に迫った2020年の規制値をクリアできる見込みが立っているのは、世界でトヨタだけ。EVを1台も売っていないトヨタがそれをクリアできるのは、HVを大量に販売しているからだ。CAFEとはメーカーが販売した全てのクルマの平均CO2排出量を規制するものなので、どんなに素晴らしいゼロエミッションカーであろうとも、売れなければ絵に描いた餅にしかならない。

確かにHVはEVに比べればCO2排出量は多いが、エンジン車1万台のうち4000台のハイブリッドを含む集合と、同じく1万台のうち10台のEVを含む集合で平均値を勝負しても話にならない。もちろん将来はEVをもっともっと売れるようにしていかなくてはならないが、今のバッテリー価格では庶民の手が届く価格にはならない。

そしてCAFEがクリアできないと、多額のクレジットを買う必要がある。実質的には罰金だ。アライアンス傘下の4社は、当面多額のクレジットで経営が圧迫される。だからこそトヨタの持つHVシステムを導入して、なんとかして平均CO2排出量を下げていかなくてはならない。

また、少し遠い未来にはEVの時代がやってくる。そのためにはバッテリー技術が欠かせない。むしろバッテリー技術がEVの本格的普及のタイミングを決めるし、そこでの勝者を決める。現在世界を見渡して、ある程度以上の規模で、バッテリーを開発している自動車メーカーはトヨタと中国のBYDしかない。もっともBYDの場合はバッテリーメーカーが自動車を開発しているという方が正しい表現かもしれない。

いずれにせよ、バッテリーの技術においてトヨタはトップランナーの1社であり、次世代においてもトヨタと組んでおくことの意味は大きい。

自動運転時代の勝算
もうひとつは自動運転に関するアドバンテージだ。少し前にUberの自動運転実験中の死亡事故がニュースになっていた。管理上の問題も多々あった事案と思われるが、本質的にリアルな実験には危険が伴う。そこで現在はこの実験をバーチャルに行う取り組みが増えているのだ。

トヨタはすでに、市販車にDCM(Data Communication Module)の装着を進めている。トヨタの説明によれば「DCMはテレマティクスサービス専用に開発された車載タイプのインテリジェント通信モジュールです。堅牢(けんろう)なユニット内には、DCMを統合管理するCPUの配下に、音声通話と高速データ通信モジュール、及び緊急時やセキュリティアラーム発生時にデータを発信するモジュールが組み込まれています」

つまりDCMは、旅客機におけるフライトレコーダーのような、操作やアクシデントに対する「挙動」「操作」のログの収集保存に加え、クルマと外部との高速データ通信、さらにドライバーの音声通信接続を司る通信端末だ。

データの使用に関するプライバシーポリシーなどの問題が完全に片付けば、世界中を走るトヨタ車が、前方カメラ映像と、それに応じたドライバーの全ての操作をリアルタイムで送信し続けることになる。クラウド上でこのデータを待ち受けるAIによってこのリアルな現場から送られてくるデータに基づいてサーバ上でバーチャルに自動運転を試み、また同時にリアルなドライバーとの操作の差分を検証することができる。

仮に全世界を走るトヨタアライアンスのクルマの全てにこれが装着されたら、数億台レベルのクルマが常時実験をしていることになり、Uberの例のように、リアルなテスト車両を走らせて収集できるデータでは足元にも及ばないデータ量とバリエーションを握ることになる。

ここで重要なのは世界をカバーしていることだ。例えば右側通行と左側通行、信号とラウンドアバウト、道路の状況や歩行者のモラルなど、例外ケースをより多く取り入れないと精度が上がらない。

こうなると、数こそが力だ。多くの地域や国々でリアルワールドを走るクルマからデータを集めなければならない。米国でしか売れないアメ車や、逆に米国で売れない欧州車には大きなハンデになるだろう。

スバルはアライアンスに何をもたらすのか?
こうしたトヨタの強みを共有できるという意味で、各社がアライアンスに応じる意味はよく分かる。

では逆はどうだろうか? マツダの場合は分かりやすい。マツダが取り組んできたコモンアーキテクチャー開発を見てトヨタは衝撃を受け、マツダとの提携を決めた。少ないリソースでいかに早く開発を進め、レベルの高い製品を生み出すかという点について、トヨタはマツダに学べる点があった。これはトヨタの豊田章男社長自身がスピーチにおいて何度も触れている。

スズキに関しては、インドマーケットでの先行者利益が大きいだろう。成長著しいインドマーケットではスズキがインド政府と一体になって、産業振興を図ってきた。長年積み重ねられた信頼は大きい。しかし同時にそのマーケットの成長速度についていくには、スズキ単独では資本も技術も間に合わない。例えばCセグメント以上に向けたHVシステムなどは、スズキがこれから単独で開発を進めるよりもトヨタの手を借りた方が早いし、続伸する販売台数に応える工場と販売店の拡充に、トヨタマネーが後押しする意味は大きい。そしてそれは同時にトヨタ本体がインドへ橋頭堡(きょうとうほ)を築くことにもつながる。しかもインドの地政学的価値を考えれば、次々世代と目されるアフリカマーケットの生産拠点としても有望だ。

ダイハツは、スズキに近い。ASEANですでに多くの信頼を得ており、インドに次ぐといわれるマーケットにすでにリーチしている。マーケットとして特に期待されているのはインドネシアとベトナムだ。技術面から見れば、トヨタが苦手としてきた小型車作りのノウハウが大きい。トヨタの小型車は価格競争力に劣り、価格に縛りをかけた上で良いものを作るという点については、長らく良品廉価を標榜してきたダイハツが上だ。しかも100%子会社になったことで、さまざまなことがやりやすくなった。

ダイハツは今後、トヨタの新興国向け小型車を一手に担うことになる。100%子会社であればトヨタブランドで苦手な勝負をするより、任せてしまった方がいい。そして今、トヨタは懸命にダイハツの良品廉価の秘密を研究している。あるトヨタ幹部は「驚愕(きょうがく)の連続です」と語った。そのノウハウはやがてトヨタの自家薬籠中のものになっていくだろう。

さて、こういう各社のアライアンスの中で、スバルは何を提供するのか? すでにフラット4とトヨタのHVシステムTHS2を組み合わせたクルマの拡大を発表しているが、それはアライアンスから得るものであって、与えるものではない。HVもやがてはエンジンとHVシステムのトータル効率が問われていく。トヨタのダイナミックフォースエンジンはすでにエンジン単体熱効率41%を達成しており、それにフラット4で挑むのはどうあがいても不可能だ。よってCAFE規制時代の今、フラット4+HVが他社に採用されるとは思えない。

リリースにもある通り、一つは、AWDシステムが挙がるだろう。トヨタは現在HVのAWDシステムを持っていない。あるのはリヤを別モーターで駆動するE-Fourと呼ばれるシステムだけで、いってみれば簡易型だ。つまりTHSのための本格AWDシステムはトヨタのみならず、アライアンス全体にとって重要なリソースになり得るだろう。

しかしそれは目先の数年の話でしかなく、ただAWDシステムを開発するだけならば技術提携だけで十分。資本の領域に踏み込む必要はないし、長期的にアライアンス最恵国待遇を得た責任を果たした、と胸を張るには少々弱い。もっとアライアンス全体に継続的に寄与できる手土産が必要だ。そこを頑張らないとアライアンスの味噌っかすになってしまう。

トヨタは今、アライアンス傘下のメーカーに対して、上から支配して要求するようなことをしない。ダイハツとの提携の時、豊田社長に聞いたことがある。「ダイハツに何を求めるんですか?」。その答えはこうだった。「それはダイハツさんが決めることです。やりたいことが明確になれば援助は惜しみませんが、こちらがああしろ、こうしろということではありません」

スバルは今、アライアンスに何をもたらせるのか? それを考えるのがスバルに与えられた課題であり、それこそがスバルの核心的価値になるだろう。スバルの価値とは何か、いまそれがアライアンス各社から注視されているのだ。

(池田直渡)