1966年6月に静岡県清水市(現静岡市)で一家4人を殺害したとして、強盗殺人などの罪で死刑が確定した袴田巌さん(87)のやり直しの裁判(再審)が始まった。これまでに死刑事件の再審公判は1980年代に4件開かれ、いずれも1審の地裁・地裁支部で無罪が確定している。検察側は4件とも死刑を求刑したものの、控訴を断念した経緯があり、有罪維持は極めて難しいことがうかがえる。
過去に再審無罪となった死刑事件は、熊本県人吉市で金品を奪う目的で祈とう師一家4人が殺傷された「免田事件」(48年)▽香川県財田村(現三豊市)で闇米ブローカーの男性が殺害された「財田川事件」(50年)▽宮城県松山町(現大崎市)で一家4人が殺害された「松山事件」(55年)▽静岡県島田市で6歳女児が誘拐され、殺害された「島田事件」(54年)。
4件とも逮捕・起訴された4人が捜査段階で犯行を「自白」した点は共通し、再審公判では自白の信用性が主な争点となったが、判決はいずれも信用性を否定した。4人は再審で無罪が言い渡されるまで死刑囚として拘置所に収容されたままで、再審請求審の段階で釈放された袴田巌さんは異例のケースといえる。
再審公判が最も長期化したのは財田川事件で、81年9月の高松地裁の初公判から、無罪判決が言い渡されるまで約2年5カ月を要した。最も短かったのは松山事件で、仙台地裁は83年7月の初公判から約1年で無罪を言い渡した。
袴田さんの再審は2024年春ごろまで公判が予定され、判決は来年度となる見込み。袴田さんも捜査段階で「自白」をしていたが、検察側は今回、自白調書を証拠請求しないとみられる。争点となる「5点の衣類」の血痕の色調に関して専門家の証人尋問が実施される可能性が大きく、審理時間の多くが科学的な論争に費やされることになる。【巽賢司】