京アニ証人尋問詳報 「妄想性障害でも逡巡するのか」裁判官の問いに医師2人の一致した見解は

《令和元年7月の京都アニメーション放火殺人事件で殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判の第15回公判が30日、京都地裁(増田啓祐裁判長)で開かれた。最大の争点である責任能力に関する審理が続き、裁判官や裁判員が精神鑑定を行った医師2人に尋問した》
《これまでの公判で、検察側が依頼した大阪赤十字病院の和田央(ひさし)医師は「(精神疾患ではない)妄想性パーソナリティー障害」が認められるものの、犯行への影響は「ほとんどない」と証言。一方、弁護側の求めで裁判所が依頼した東京医科歯科大大学院の岡田幸之(たかゆき)教授(司法精神医学)は、被告には重度の妄想性障害があり、「犯行の動機を形成している」と異なる見解を示していた。証言台に和田氏と岡田氏が並んで座り、尋問に答える》
裁判官「妄想性障害と妄想性パーソナリティー障害の大きな違いは」
和田氏「極度の疑い深さなのか妄想なのかが論点になる。『疑い深さ』から妄想に変われば障害といわれ、変わっていなければパーソナリティーの域を出ない」
岡田氏「核となるしっかりした妄想が結実しているか、そうでないか」
《青葉被告は被告人質問で、京アニ大賞に落選した後に小説のネタ帳を燃やした際の心境を「つっかえ棒がなくなった」と述べていた》
裁判員「小説を書き続けていたら今回の事件は起こらなかった」
和田氏「即答は難しいが、小説を書き続けることができたかどうかは大きな事情だったと思う」
岡田氏「もし書き続けていたなら、(事件を)起きにくくするほうに働いていたと思う」
裁判員「妄想性障害のまま書き続けることは可能だったのか」
岡田氏「十分可能。妄想と現実のかみ合い次第ではできる」
《前回公判で岡田氏は、妄想が動機の形成に関わったとする一方、事件3日前に京都に到着して以降の犯行準備においては「妄想は関係ない」と説明していた》
裁判員「妄想性障害の影響は犯行までの3日間になかった?」
岡田氏「どこに何時に火を付けるとか、細かいことを決めるのに妄想は関係なかった」
裁判員「妄想の影響は動機まで」
岡田氏「基本的にそう。彼はこれまで何か問題が起こる度に(当事者との)関係を絶ってきた。でも京アニの場合は逃げたとしても『著作権を譲渡しても盗作してくる』と(妄想)し、『だからやるしかない』となる。盗作の部分は妄想が関わっている」
《これまでの公判で、被告は犯行直前に逡巡(しゅんじゅん)しながらも、「どうしても許せなかったのが京アニ」と犯行を決意したことが明らかになっている》
裁判官「妄想性障害の場合、逡巡する人はよくいるのか」
和田氏「いくつかの場合がある。例えば、『隣の人を殺さないと自分の家族が何らかの組織に殺される』という妄想であれば、躊躇(ちゅうちょ)しないかもしれない。ただ、状況認識に問題があっても、考える余地があれば逡巡は見られる」
岡田氏「同意します」
《弁護側は「事件は被告にとって、人生をもてあそぶ『闇の人物』への反撃だった」と主張。青葉被告も被告人質問で、「闇の人物のナンバー2」が自身の人生に関与したと何度も訴えていた。妄想の影響を否定する和田氏に裁判官が「ナンバー2」の解釈を尋ねる》
裁判官「『ナンバー2』の妄想も、通常心理に近いといえるのか」
和田氏「はい」
裁判官「通常の心理ではなかなか起きにくい妄想に思えるが」
和田氏「すごい人物が自分のところに現れる、励ましてくれる、働きかけてくれる。京アニに関する妄想でも、同じような質のものと考えている。さほどかけ離れているわけではない。それが一番の根拠」
裁判長「岡田氏の鑑定主文について。妄想が動機を形成したというのは、犯行の意思決定とイコールか」
岡田氏「意思決定とは」
裁判長「京アニに対して攻撃するという意思決定についてです」
《岡田氏は無言で首をひねり、しばらく沈黙する》
裁判長「ガソリンで火をまいて殺害すると決意したことをさしているのか」
岡田氏「主文は簡潔に書く。あえて一言でいうなら、妄想は動機形成に影響している。ただ複雑な形で妄想が関係している」
《医師の証人尋問はこの日で終了。次回11月6日の公判では、責任能力について検察官と弁護人が意見を述べる「中間論告」と「中間弁論」が行われる》