日本からいなくなる?危機感 国内初のアフリカゾウ人工授精に挑戦

盛岡市動物公園「ZOOMO(ズーモ)」が今冬、国内初となるアフリカゾウの人工授精に挑戦している。アフリカゾウを巡っては象牙を狙った乱獲に加え、近年では国内の繁殖例がほとんどないことなどから個体数が維持できず、将来の飼育展示が危ぶまれている。園の関係者は「人工授精を成功させないと、日本でのアフリカゾウの未来はない」と危機感を強め、初の試みに大きな期待を寄せている。【湯浅聖一】
人工授精を受けるのは、同園で飼育している雌のマオ(21歳)。2001年に妊娠した雌のはなこがおなかの胎児とともに死んだため、残された雄のたろうの伴侶として06年に多摩動物公園(東京都)から移ってきた。園は繁殖に取り組んだが妊娠には至らず、たろうは18年に死んで、マオ1頭になっていた。
園によると、23年1月現在、アフリカゾウは国内14動物園で計25頭(雄4頭、雌21頭)が飼育されている。過去10年間で16頭が死んだが、希少動植物の取引を制限するワシントン条約により輸入は困難な状況が続いている。
繁殖も、これまで10回以上、動物園間を移してペアを組ませてきたものの、13年にとべ動物園(愛媛県)の1組が出産したのを最後に途絶えている。盛岡市動物公園、八木山動物公園(仙台市)、大森山動物園(秋田市)の3園が協力している繁殖事業も難航中だ。
また、妊娠経験のない雌は生殖器疾患で妊娠できなかったり、排卵が停止したりする例が多く、性成熟した雌が10~15年繁殖しないと子宮疾患のリスクも増えるという。マオは性成熟から14年目を迎え、早期の出産が望まれていた。
園を運営する「もりおかパークマネジメント」は今年3月、マオの人工授精を行政の事業として行う協定を盛岡市と締結。6月にはドイツの獣医師で、ゾウの人工授精の第一人者、トーマス・ヒルデブラント氏に施術を依頼した。
当初は9月下旬~10月上旬の実施を予定していたが、フランスから冷凍精子を輸入する手続きに時間がかかり、マオの次回の排卵が推定される12月末以降に見直した。飼育担当の丸山孝作さん(43)は「施術するためのトレーニングも順調で、準備は整っている」と自信を見せる。
現在はゾウ舎にカメラを設置し、24時間態勢でマオの食事や睡眠、行動などを観察。太りすぎると難産になりやすいため、餌の量を調整するなど体調管理を徹底している。
「人工授精の技術を高めれば、他の動物園でもチャレンジしやすくなり、個体維持につながる」と丸山さん。挑戦の成否に全国の動物園が注目している。
アフリカゾウ
長鼻目ゾウ科に分類され、現存する陸上野生動物では最大種。主にアフリカ・サハラ砂漠以南のサバンナや森林に広く生息する。排卵は年3~4回のみで、妊娠期間は22カ月に及ぶ。平均寿命は約60歳。象牙目当ての密猟や森林伐採で生息数が減り、国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種に指定されている。1990年にワシントン条約で象牙の国際取引を原則禁止。大半の国が国内取引を禁じる中、日本は容認し「密猟を誘発している」と批判されている。