人間がだまされる音!? 猫の「ゴロゴロ音」に隠されたメッセージとは?

猫がしっぽをピンと立てて近寄ってきたら何の合図?――しっぽの動きで猫の気持ちを知る方法 から続く
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猫の考えてること、知りたくないですか?ベストセラー『ざんねんないきもの事典』シリーズ、『わけあって絶滅しました』の監修者としても知られる動物学者の今泉忠明さんが、解剖学、動物行動学の知見を駆使して、猫脳の謎に迫った『猫脳がわかる!』(文春新書)を一部公開します。猫の気持ち、知ってください!
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口を開けて鳴かない、という独特な行動とは真逆の、口を閉じて鳴くパターンが、猫のゴロゴロ音でしょう。猫を飼ったことがある人なら、きっと一度は聞いたことがある、あの摩訶不思議な音です。喉を鳴らすというくらいなので、猫がゴロゴロ鳴いているときに首元に手を置くと、振動しているのがよくわかります。
文藝春秋
最近になって、米国ルイジアナ州のテュレーン大学の研究チームが、このゴロゴロ音を詳細に調べました。それによると、猫のゴロゴロ音は約65デシベル(人が話すくらいの音量)で、喉頭が規則的に振動して起こるものと判明。喉頭の筋肉が、2枚の声帯にある隙間を開閉させて、喉を通る空気流を震わせていたのです。

このゴロゴロ音も、まさしく猫脳の仕業といえます。なぜなら、この振動は、神経細胞の興奮と関係しているからです。脳は、いってみれば神経細胞であるニューロンの集まりです。脳が働くときには、ニューロンからニューロンへ電気信号が流れます。この電気信号をインパルスといい、ニューロンが刺激を受けて興奮することで起こります。つまりインパルスが伝わることによって鳴るゴロゴロ音は、猫脳内の神経中枢の活動が関与していることになるわけです。
ではなぜ、猫はゴロゴロと鳴くのでしょうか。いちばん有力なのは、母猫と子猫のコミュニケーションから始まったとの説です。猫は生後1週間で、母猫のお乳を吸っているときにゴロゴロ鳴き始めます。それは、「ここにいるよ、ちゃんとお乳を飲んでいるよ」と自分の無事を母猫に伝えたいから。ゴロゴロ鳴くと体が振動するので、母猫は横たわってお乳を与えていても、子猫の存在を感じることができます。

それでは子猫は本能的にゴロゴロの鳴き方を体得しているのでしょうか? 猫として生まれた以上、教わらなくても反射的にできる生得的行動かもしれませんが、そもそもは母猫から子猫にゴロゴロ鳴きかけたのがきっかけともいわれます。
母猫は、自らゴロゴロ喉を鳴らすことで、子猫に安心感を与えています。そのゴロゴロ音を真似て子猫も喉を鳴らすようになったとも考えられています。母猫と子猫のコミュニケーションでよく見られることから、猫がゴロゴロ鳴くのは、安心感や甘えの気持ちを表現していると広く知られているようです。

ですが猫がゴロゴロ鳴くのは、気分のいい時ばかりではありません。体の調子が悪い時や、ケガをして傷ついている時にも、猫はゴロゴロ喉を鳴らしているのがわかっています。それは、ゴロゴロ音の振動によって、自らを落ち着かせようとしているからだと考えられています。
第1章でお話ししましたが、猫脳は不安や恐怖に素早く反応する扁桃体が、よく機能しています。だからこそ、不安などが刺激要因となってインパルスが伝わり、ゴロゴロの振動が始まるのではないでしょうか。
こうしてみると、この独特なゴロゴロ音は、猫が他者に送るメッセージなんですね。確かにネガティブな意味を伝える状況もあるようですが、飼い猫だと、やはり飼い主に甘えるときにゴロゴロ鳴いていることが多いようです。飼い主が毛布など柔らかい布をかけてリラックスしているとき、猫は前足を交互に揉むように動かす「ふみふみ」と呼ばれるしぐさを見せます。これは子猫が母猫のお乳を飲むときに、お乳がよりよく出るようにしていた行動の名残。このとき、たいてい猫はゴロゴロ鳴いています。ふみふみとゴロゴロはまるで「甘え」セットのようです。このセット行動は、子猫気分が強いときの飼い猫ならではのもの。表情を見ると、うっとりとして恍惚状態になっています。飼い主を母猫に見立て、思い切り甘えているんですね。可愛いじゃありませんか。

こうやって人は騙されるという研究結果が、2009年、イギリスで発表されました。なんでも、ゴロゴロ音とニャーニャーの鳴き声を混ぜた録音を50人に聞かせたところ、多くが、通常の鳴き声より緊急性を感じたというのです。つまり甘えるときのゴロゴロ音と、要求のときのニャーニャーという高い鳴き声をうまくミックスさせることによって猫が、ちゃっかり自分の願いを叶えているというわけです。

「ごはんをくれ~」という要求を通すために、あの手この手を繰り出す猫。人よりも一枚も二枚も上手な感じがするのは、私だけでしょうか。
(今泉 忠明)