今年7月に記録的な集中豪雨に襲われた秋田市では、3500世帯以上が床上浸水の被害に見舞われたと推定されている。それから4カ月が経過する中、「住宅の修理が進まず、冬を越せない」という悲痛の声が上がっている。
災害救助法では、自宅に住めなくなった被災者には「賃貸型応急住宅」(いわゆる「みなし仮設住宅」)が提供され、被害判定で準半壊以上となった住宅を対象として「住宅の応急修理」という制度もある。しかし、今回、秋田市を襲った水害では、被災者の多くがそれらの制度を利用できず、壊れたままの自宅で寒さに震えている。
いったい何が起きているのか。なぜ、危機的な事態が生じ、いまだに問題を解決できないのか――。被災者やボランティア、行政関係者への取材を通じて検証した。
10月23日、秋田市内で開催された被災者支援のあり方を話し合う会議で、衝撃的な試算結果が示された。
【図】支援制度の利用状況
「今の家で冬を越すのは難しいが、仮住まいの予定がない世帯=800世帯以上」「暖房器具の配付が必要な世帯=2000世帯以上」……。
「秋田越冬支援調査結果報告」と題した資料に、目を疑うような数字が記されていた。
被災者への聞き取り調査を基に報告書を作成したのは、秋田市内で障害者やホームレスを支援する非営利活動法人(NPO法人)「あきた結いネット」。
理事長の坂下美渉さんは、秋田市や秋田市社会福祉協議会の職員などを前に、「このままでは冬を越せずに命を落とす人が出てくる」と、早急な対策の必要性を訴えた。
衝撃的な試算結果が行政の背中を押す
その直後から、事態は動き出した。
会議を取材した地元紙の秋田魁新報は、10月27日の紙面で、「7月記録的大雨、冬越せない800世帯、転居、暖房支援が必須、NPO法人調査」と報じた。
河北新報も10月31日付で、「秋田大雨 目立つ在宅被災者、冬目前、関連死危ぶむ声」と大きく扱った。同紙には「みなし仮設、要件厳しく利用低調」「支援団体『弾力的な制度運用を』」との見出しも載った。紙面には、被害が深刻な地域で今も修繕工事が終わらない住宅の写真が掲載された。
これらの報道に、いつになく素早く反応したのが秋田市だった。
会議から4日後の10月27日、秋田市は11月1日付で庁内に市民生活や防災安全、福祉、住宅関連部署などの職員で構成する「復興支援チーム」を設置すると決定。床上浸水した住宅を、市の職員が2人1組の計20チームで戸別訪問し、暖房器具や寝具のニーズの聞き取りや住宅応急修理などの支援策の利用を促す周知活動を開始した。