「捜査のイロハを教えてやろうか」木原事件の元取調官か明かす、露木警察庁長官の「論理矛盾」とは

「当時私が取り調べたのはX子さん1人だけ。でも、これから話を聞くべき“容疑者”は他に何人もいる」
こう語るのは、「木原事件」を巡り週刊文春で実名告発した警視庁捜査一課殺人犯捜査第一係、通称「サツイチ」の佐藤誠元警部補だ。
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種雄さんの父母と姉2人が警視庁大塚署に告訴状を提出
木原誠二前官房副長官(53)の妻X子さんの元夫・安田種雄さんの“怪死事件”、通称「木原事件」が新局面を迎えた。10月25日、警察が種雄さんの遺族が提出した告訴状を受理。再捜査が行われる見通しとなったのだ。
当初、捜査を担当した警視庁大塚署に提出された告訴状は10月18日付で、告訴人は種雄さんの父母と姉2人。告訴趣旨は「被疑者不詳の殺人」である。
種雄さんの父が語る。
「いつ受理されるのか、1年先になるのか、また長引いたらどうしようと、ずっと不安でした。それがこんなに早く受理されるとは。信じられない思いです」
「絶対に捜査を尽くさないといけない事件」と断言する理由
X子さんの取調官だった冒頭の佐藤氏は告訴状受理の一報を受け、「ご遺族の精神的な安定を考えると良かったと思う。これが第一歩です」と一定の評価を示しつつも、こう指摘する。
「私の経験上、殺人事件で告訴状を受けて捜査するというケースはあまり聞いたことがありません。そもそも、この事件は“絶対に捜査を尽くさないといけない事件”ですから」
絶対に捜査を尽くさないといけない事件――こう断言するには理由がある。
「これは『立件票交付事件』だからです」(同前)
立件票とは事件性が疑われる事案に際して検察が交付するもので、必ず番号が付記される。
「立件票が交付されれば、警察は捜査を尽くし、事件性の有無を明記した報告書を検察に送致しなければならない。その報告書を精査した検察が起訴や不起訴を決定するのです」(同前)
露木長官の“論理矛盾”を佐藤氏が批判
事件が発生した2006年当時、種雄さんの遺体は事件性が疑われて司法解剖が行われており、検察の指揮下に入っていた。
ところが、今年7月13日の会見で露木康浩警察庁長官が「証拠上、事件性が認められない」と発言。これに佐藤氏は「捜査のイロハを教えてやろうか」と述べていたが、批判したかったのは、立件票交付事件のプロセスを無視した露木長官の“論理矛盾”だという。
「自殺と勝手に判断し、『事件性はない』と語る権利は露木長官にはないんですよ。立件票交付事件において、事件性の判断は検察側がする。警察側が勝手に結論を出せない重いものなんです」(同前)
警察は丁寧に捜査をやっていくしかない
かくして2度目の再捜査が行われることになったが、一方で事件発生からの“空白の17年間”で遺族が得られなかった権利があるとも佐藤氏は言う。
「犯罪被害者等給付金という制度があるんです。申請期限は事件発生から7年。遺族給付金では最大で数千万円の給付金が出る可能性がある。もちろん自殺の場合は出ません。大塚署がちゃんと当初の捜査をしていれば、遺族がこの権利を失うことはなかった。実は18年の再捜査の時も私はそのことが頭にあってね。遺族が可哀想だなと思っていたんです」
そして、自身が携わった再捜査の時のような不自然な終わり方は「さすがにできないと思う」とした上で、佐藤氏はこう語る。
「告訴を受けた以上、警察には全件送致主義(全ての事件が検察官に送致されるという原則)がある。時間はかかるかもしれないが、警察は丁寧に捜査をやっていくしかないでしょう」
捜査の行方に日本中が注目している。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2023年11月9日号)