今年の5月5日、東京都台東区の風俗街・吉原のソープランド店で、女性従業員のAさんが客だった今井裕被告(犯行時32歳)に折りたたみ式ナイフで殺害された。11月20日に事件の初公判が東京地裁で行われ、今井被告が法廷に現れた。
Aさんの予約ができなくなったために自殺を考え、被害者Aさんを殺害し、自分も死のうと思ったことを明らかにしたが、弁護人からの「被害者に好意はあったのか?」との質問に対しては否定した。
検察側によって、事件の概要も明らかになった。
2023年5月5日午前11時19分に「ソープランドで従業員の女性が倒れている。刺した男も倒れている」などの119番通報があり、直後にも、「接客中に刺された」という110番があった。
男性従業員は10時13分にドリンクを客室に運ぶ途中で、廊下に倒れている今井被告を発見した。「どうしました?」と声をかけると、今井被告は「過ちを犯してしまった」と話したという。
11時26分に警察官2人が現場に到着し、その3分後に救急隊が到着。客室へ向かうとAさんが首の左側の部分から出血した状態で倒れており、呼吸や脈がなかったため病院に搬送された。廊下で倒れていた今井被告は、従業員によって確保された。「僕もお腹が痛いので救急車に乗せてください」と言い、救急搬送された。
「Twitterで知りました」「会ってみたいと思いました」
被告人質問では、今井被告とAさんが初めて会ったのが2019年であることも明かされた。場所は川崎のソープランドだった。今井被告は別のソープランドのボーイとして働いていたが、Aさんが所属する店舗の客室が満室だったため、今井被告が所属する店舗の空室を借りにきたのが初対面だったという。しかし、この時は今井被告が顔を見ただけで、会話はしていない。次に接点を持ったのは2022年の4月だった。
弁護人「(Aさんを指名したいと思った)きっかけはなんだったのか?」
今井被告「Twitterで知りました。別の女の子のツイートをいろいろ見ていたら、辿り着きました」
弁護人「どう思った?」
今井被告「川崎の店をやめたんだと思いました。会ってみたいと思いました」
このとき、Aさんはすでに吉原の、事件が起きた店舗で働いていた。今井被告は予約が埋まっていたため他の女性を指名したが、そのときに1週間前なら予約ができることを知った。「お店を利用すると、予約ができると知った」(今井被告)。そもそも、なぜAさんに興味を持ったのだろうか。
弁護人「どういうところに興味を持った?」
今井被告「どういう接客をするのだろうと思って」
弁護人「サービスを受けた後は?」
今井被告「予約を取れるアドレスを教えてもらいました」
弁護人「その後の利用は?」
今井被告「月1回」
弁護人「サービス料は?」
今井被告「(110分での総額)67500円」
弁護人「(今井被告の)給料で大丈夫?」
今井被告「月1回なら」
しかしその後、今井被告の来店回数が増えていく。検察側が提示したAさんと今井被告のメールのやりとりからは、月に複数回だったり、2回分の220分の予約を続けて取ったりしていたことがわかる。
弁護人「回数が増えてきましたね」
今井被告「はい」
弁護人「収入で大丈夫でしたか?」
今井被告「大丈夫じゃないです」
弁護人「それでどうしましたか?」
今井被告「以前から知っていた投資を始めました」
弁護人「消費者金融は?」
今井被告「借りました」
弁護人「両親からは?」
今井被告「借りました」
「(1回映画を一緒に見ると)13万円。そういうものだと思います」
Aさんが働いていた店では、長い予約を入れると一緒に店外で映画を見られるサービスがあったという。今井被告はそのために多額のお金をソープランドで使うようになり、消費者金融や両親からもお金を借りるようになった。次第に、予約はしてもキャンセルや変更が多くなっていく。
弁護人「映画を見ていますね」
今井被告「2枠の予約を入れると、店の外で会えます」
弁護人「金銭が発生しますよね?」
今井被告「発生します」
弁護人「1回の映画では?」
今井被告「13万円。そういうものだと思います」
事件発覚当初、この店舗では客の男性に恋愛感情を持たせて来店頻度を上げる、いわゆる「色恋営業」が激しいとの報道もあったが、今井被告の受け答えからは、Aさん側からアプローチをした様子は見えてこない。
弁護人「2枠を取ると店外で会える?」
今井被告「はい」
弁護人「被害者からの誘いは?」
今井被告「なかったと思う」
弁護人「映画を見たいとの誘いは?」
今井被告「なかったと思います」
キャンセルや変更が増えていった今井被告に対して、Aさんは<絶対にキャンセルなしだから。前回、理由のないキャンセルでした。キャンセルや変更が多いと店に怒られる>などとメールを送っている。
状況が変わったのは、23年1月に今井被告が<投資に失敗したので財産がなくなった>とキャンセルのメールを送ってからだった。Aさんは<キャンセルが多すぎるので私の方からは予約不可になりました>と返信し、今井被告は、自殺を考えるようになったという。
弁護人「予約が取れなくなってどういう気持ちに?」
今井被告「そのときは自殺しようと考えました」
弁護人「3月7日にアマゾンでナイフを購入していますね」
今井被告「自殺用です」
弁護人「なぜ自殺しようと?」
今井被告「生きる意味がわからなくなって」
Aさんの予約を取れなくなったことと自殺の関連性について明言されることはなかったが、今井被告は購入したナイフを透明のポーチに入れて常時持ち歩くようになった。5月5日の犯行当日も持ち歩いていた。ちなみに、当日は偽名で予約した。しかも、会社から借りた携帯電話からかけている。そのため、受付段階では今井被告だとはわからない。
弁護人「被害者は拒否しているのに、どうして?」
今井被告「もう一度会いたかった」
弁護人「どういう格好で店に?」
今井被告「白い帽子、マスク。白いワイシャツ、水色のズボン。変装しました。エレベーターでは気づかれませんでしたが、降りて部屋に着いた後、気づかれました」
弁護人「どういう態度をされました?」
今井被告「『何回も予約をキャンセルしているのに、よくこれたね』と言われました」
罵倒され、土下座させられ「殺害し、自殺しようという選択にした」
その後、今井被告はAさんに土下座させられたという。そしてトイレに入るとその中で、「被害者を殺害し、自分も死ぬ」か、「理由をつけて、店を出る」ということを考えた。しかしAさんに罵倒され、土下座をさせられたことで怒りがあったためか、「考えて、考えて、結局、殺害し、自殺しようという選択にした」と話した。その後、トイレを出てAさんを殺害した。
弁護人「出血は?」
今井被告「血溜まりがあった」
弁護人「どのくらいの時間、見たままだった?」
今井被告「10分から15分」
弁護人「そのあとは?」 今井被告「自殺を決意した。左手でナイフを持って、首に当てた。しかし、できなかった。その後は、自分でお腹を刺した。痛かったので、なんとかしたいと思った。部屋の中でなんとかしようと思ったができず、部屋を出て、エレベーターのほうへ向かっていると、男性従業員に会いました。その後、意識を取り戻したら、病院のベッドの上でした」
この事件は、風俗店の客が女性従業員に恋した結果の事件なのだろうか。弁護人の「被害者に好意はあったのか?」という質問に今井被告は「ないです」と答え、Aさんへの恋心を否定した。
(渋井 哲也)