「あなたを許すことができると思いますか」 京アニ公判、遺族が訴え

京都アニメーション放火殺人事件の公判で29日、犠牲者の遺族らが法廷で自らの心情を陳述した。京アニのアニメーターだった寺脇(池田)晶子さん(当時44歳)の夫(51)の陳述(要旨)は以下の通り。
私は「涼宮ハルヒ」などで総作画監督やキャラクターデザインをしていた池田晶子の夫です。事件当時息子は小学校2年生です。
最初にこれだけははっきり言っておきます。私たちはこのような事件では負けません。必ず、はい上がって乗り越え、より前に進みます。特に息子は、逆にこの事件を糧にして、事件前の状態に戻すだけでなく、前を向いて、いつか心の底から笑えるようになります。つらかった時もあったけど、あの時頑張ったから今があるんだよね、と言えるように。息子を一人前の人間に育て、社会に出た時に胸を張って生きていけるようにすることが、私の絶対的な責任です。それが、晶子に対してできる供養の一つだとも思っています。妻を母親を殺されても、私たちは不幸な人間にはなりません。不幸だと思うことが不幸ではないでしょうか。もっと不遇を強いられている方はおられます。私たちは恵まれていると思ってます。
青葉さん、あなたも京アニのアニメに感銘を受けて救われたことがあったと思います。晶子もアニメに感銘を受け、アニメーターの仕事を選びました。晶子が京都アニメーションに就職した当時は、原画1枚5円から20円という到底生活できない出来高制の安い給料で、苦労したようです。それでも、青葉さんも含めたファンの方に感動を与えられるよう、作品づくりを頑張っていました。独身の時は終電まで夕食も忘れて仕事に打ち込み、結婚してからも子供を寝かしつけてから、深夜まで基本的なデッサンを繰り返し、「うまくなりたい」と努力していた。決して、たやすく今の京都アニメーションがあったわけではありません。
晶子は生前、アニメーター自身が自分の夢を形にすると同時に、その夢をファンのみんなと共有し、分け与えるのが京アニという会社だと、これが採算性を追求した他の会社と違うところ、とよく話していました。アニメを売る会社ではなく、夢を売る会社にしたかったのだと思います。また、アニメーターが普通に生活できるだけの収入を得られるよう、業界全体を変えたいとも話していました。晶子の性格と他の職場仲間の性格の知る限りで、逆にお金をもらって頼まれても盗作はプライドにかけてしないと思います。
青葉さん、あなたはそんな晶子の命を奪っただけでなく、その夢もぶち壊しにしたのです。晶子だけでなく、他の京アニ社員の方々も、あなたが感銘を受け、救われた作品を手がけた人たちです。その人たちに何をしたのかを、きちんと考えてほしい。
晶子は、妻であり子を持つ母親でもありました。子供に対してとても優しく、楽しく接する母親でした。子供が小さい時は寝付くまでトントンしながら、子守歌を歌ってあげるような母親です。亡くなってしまった今、晶子は自分の死より、アニメのことより、子供のことを心配していると思います。子供を残して無念だと思います。
あなたは晶子の命や夢、子供との生活を奪っただけではなく、当時、小学2年生だった息子の人生にも大きなデメリットを背負わせたのです。母親との突然の死別は離婚別居とは全く異なります。息子はもう、年を取るごとに母親の記憶は薄れていき、さらにこれからは母性を感じる経験はできません。
それでも、息子は本当に頑張ってきました。毎週、母親へのお供え物を自分で買ってきて、仏壇に手を合わせています。医者になることを夢見ており、「困っている人を助けられるお医者さんになりたい」と言っています。
最近では、私と息子が半年ほど前、極楽浄土のモデルとして建築された宇治の平等院に行った時、息子に「ママ、どうしてるかな?」と気軽な気持ちで問いかけたことがあります。息子は「ママは天国で生まれ変わる準備をしている」とうれしそうに話していました。子供と楽しそうにしていたママは今でも笑っていると、どうしても思いたかったのだと思います。最近は、母親のおなかにいた時の話や、生後間もない時の話をしてあげると、ものすごく楽しそうにしています。「寝顔が母親にそっくり」と話してあげると、とてもうれしそうです。
裁判について、息子には「青葉さんの刑は、法律の専門家の人たちが一生懸命考えてくれるので、見守ろう」と話しています。息子に言っているのは、「青葉さんの方を向くのではなく、自分自身のことを見よう。自分を鏡に映して見た時に、目標に向かって前向きに頑張れているか。人を恨むことをしてはいけない。夢や希望を自分の努力でかなえた時が、青葉さんにされたことに打ち勝ったことになる」ということです。息子はひとりで精神的な面も現実的な面も乗り切りました。同時に子供も時がたてば癒える傷口もあれば、逆に無限に広がる傷口もあるのです。
この事件で最も苦しんだのは亡くなられた方、負傷された方だと思いますが、私は事件後にいちばん頑張ってきたのは、「遺族」になった何人もの子供たちではないか、と感じています。まだ、親から生きていくすべを得ていない子供たちがなぜ、ここまで苦労を強いられなければいけないのか、大きな疑問です。あなたの罪は事件の犠牲者、被害者に対するものだけではありません。法廷に来ている人、来ていない人も含めた全ての遺族や被害者の家族にも苦しみを与えています。事件後に他界され、裁判に参加できなかった遺族に対しても同様です。
ここで話を変えます。次に青葉さん、あなたのことをお話しします。この裁判を見ていると、青葉さん、あなたも人生で苦労されてきたことは理解できます。ですが、あなた以上に苦しんで生きてきた人は、私の身近にもたくさんいます。人生に苦労する人は、数え切れないほどいることは知ってほしい。今回、あなたの行為で、苦しい人生を歩まなければならなくなった人が、息子も含め何人も増えたことも知ってほしい。少なくとも息子は、あなたの10年の苦労どころか今までですら4年、これからずっと数十年母親を殺された負い目、悲しさ、寂しさに耐えて生きていかなければならない。
私の息子は、事件の前にお付き合いのなかった人たちからも、いろいろと助けられています。助ける人は相手を選びません。「苦しんでいます。助けてください」と、周囲に助けを求めていれば、手を差し伸べてくれる人はいたのではないですか。あなたは、京アニを含めて映像文化に携わる方々に、悪意を向けるのではなく、一部分でも感謝をすべきだったと私は思います。
最後のお話です。この裁判で、あなたに科される量刑がどうなるかは分かりませんが、あなたが人を殺した、治癒できないほどに傷を負わせたという現実はもう否定できません。つまり無罪であったとしても、無実ではありません。さらに、晶子はただみんなが楽しく元気になるように、その手段としてのアニメ業界も元気になるようにと努力してきたが、逆に殺された。息子は寂しさに耐え、文句も言わず我慢して前向きに進んでいる。それを見ている親としての私もつらい。
あなたは盗作されたと考え、京アニを許せなかったのと同時に、私たちは母親、妻を殺された。私たちがあなたを許すことができると思いますか。あなたの言い分もあると思いますが、せめて、私のことはさておいても、今この裁判中も病院に入院している方や通院して苦しんでいる方々、残され苦しんでいる方々がいることを考えてください。被害者(特に子供たち)が、少しでも前向きに人生を送れるよう、自分の罪に向き合い、本気で手を合わせて反省してほしいと思います。