【週刊誌からみた「ニッポンの後退」】
林真理子(69)とは、記憶はおぼろげだが2度ほど会ったことがある。
どちらも私が週刊現代の編集長時代だったから、30年ほど前になる。場所は失念したが、彼女が習っている日本舞踊(林は藤間流の名取だそうだ)の発表会ではなかったか。
売れっ子作家だった林と親しい編集部員から、ぜひ出てくれと頼まれ渋々足を運んだ。会場は立派だったが、来ているのは他社の林担当者か取り巻きたちばかりのようだった。
日舞に無知な私だから演目は忘れてしまったが「藤娘」のようなものではなかったか。
お囃子が始まると、失礼だが、ダルマが派手な着物をまとって転がり出てきたのかと思った。
当時は、口の悪い担当者で「女小錦」などと陰口をたたいていたのもいたようだ。それに反発したのであろう、過酷なダイエットなどに耐え、見違えるようにスリムになってみせた。
踊りは記憶から失せているが、幕間の弁当の豪華でおいしかったことだけは今でも覚えている。
いま一度は、やはり編集部員が、「林さんが編集長と食事をしたいといっている」といってきたことからだった。
私は重度の対人恐怖症で、中でも女性と話すのが苦手だから、断りたかったが、天下の直木賞作家の誘いを断れば、「これから講談社からは本を出さない」などという事態に発展しかねない。
意を決して、当時話題になっていた豪華絢爛のフレンチレストランを予約した(もしかすると彼女側からのオファーだったか)。
だが、一緒に来るはずの編集者が都合で来れなくなり、彼女と2人きりで会うことになってしまったのである。
店の天井にはシャンデリア、背丈ほどの生花が真ん中に置かれている。居酒屋でホッピーを飲みながらなら話が弾んだかも知れないが、雰囲気と彼女が体全体から醸し出す威圧感。その上、私は彼女の作品の愛読者ではないから、作品についての話もできず、お互い気まずい沈黙がたびたび続いた。
別れた後、私は居酒屋に飛び込み、煮込みを肴に焼酎のお湯割りを流し込んだ。
女性の嫉妬心や虚栄心を赤裸々に描くことで世に出た林は、直木賞を取りたいがために文壇の大御所である渡辺淳一に近づいたなどといわれたこともあった。
私見だが、自己顕示欲、上昇志向の強さで、彼女と並ぶ作家は瀬戸内寂聴だけではないか。
その彼女が、日大出身という理由だけで、理事長に就任すると聞いた時、羽生結弦の結婚よりも確実に「失敗」すると思ったのは、私だけではないはずだ。