能登半島地震で、道路が寸断され孤立状態になっていた集落で、自ら住み慣れた地域を選ぶ住民がいる。土砂崩れによって道がふさがり、徒歩で農道を約20分進んだ石川県輪島市三井町細屋に住む岡田健二さん(63)。地震の傷痕が大きく残る自宅で一人過ごしている。
元日、大きな揺れによって自宅内のタンスが倒れ、寝ていた岡田さんの額上部に直撃した。気がつくと、血だらけで車の中にいた。必死にタンスの下敷きとなった岡田さんを助けたのは、2年前に妻が他界して以降、男2人で生活を送っていた高校2年の長男だった。約1週間後に心配した親戚が自宅を訪ねたタイミングで長男は同県小松市に避難したが、岡田さんは「外での生活はストレスを感じる。ここを出たくない」と残った。大きく残る頭部の傷は、地域を訪れた自衛隊から手当てを受けたが病院には行けていない。
同地区には地震前、約15人が生活を送っていたが現在残るのは4人。電気や水道に加えて電波も届かない。数日に1回、同県穴水町などへ買い物に行くが農道を歩き、手に持てる量は限られる。冬季に向けて蓄えていた灯油200リットルや山の水をうまく使いながら生活を送っている。電話の通じる場所へ買い物に出かけた際には長男と電話をする。先日は学校について話し、もうすぐオンライン授業が始まることを知った。
雨が続いたことから同地区では、ますます土砂崩れの箇所が増えている。もしも自宅が潰れてしまった場合を考え、岡田さんは自宅近くに止めてある車に貴重品や食料、長男の学校制服や体育着を収納した。【藤井達也】