2017年に和歌山県白浜町の海岸で、保険金を得るなどの目的で、水難事故に見せかけて妻を殺害したとされる男の控訴審。3月4日、大阪高裁は男側の控訴を棄却しました。 1審判決によりますと、野田孝史被告(34)は2017年7月、和歌山県白浜町の海岸で、妻の野田志帆さん(当時28)を、何らかの方法で体を押さえつけ水に溺れさせて殺害しました。 ▼妻の体内から砂 さらに妻はダイビングの有資格者 事件当時、野田被告は手を挙げて叫ぶなどして周囲に助けを求め、“トイレに行って帰ってくると志帆さんが顔を下にして水面に浮いていた”と説明。 しかし当時、海は荒れていなかったのに、搬送先の病院での吸引処置では、志帆さんの胃の中から30グラム以上の砂が出てきました。一方で解剖時、肺や気管の中には砂は確認されませんでした。 ▼「不倫解消/離婚という両立不可能な約束をする中で関係を清算しようとした」「死亡保険金を得る目的もあった」1審は懲役19年判決 1審の裁判で野田被告は「殺していません」と無罪を主張。弁護側も、事故の可能性を主張しました。しかし和歌山地裁は2021年3月の判決で、事前に「溺死に見せかける」などの検索もしていた点などから「計画性も明らか」と糾弾。野田被告に懲役19年を言い渡しました。 ▼被告側が控訴 控訴審でも複数回の審理 この判決を不服として、野田被告側は大阪高裁に控訴していました。 控訴審でも複数回の審理が行われ、志帆さんの胃の中から砂が見つかった点について、改めて検討が重ねられてきました。 ▼「砂の量の具体的算出は困難」和歌山地裁の判断過程の一部を不合理と指摘 3月4日の判決で大阪高裁は、和歌山地裁が志帆さんの胃の中から「30グラム以上」の砂が見つかったとした点については、砂が保存されておらず、吸引措置の再現実験の精度に不安もあるとして、「砂の量を具体的に算出することは困難」と断じました。 その上で、砂など物的証拠の面からは、「事故や自殺の可能性を完全に排除できず、他殺の可能性が相対的に高いと言えるに留まる」と指摘。和歌山地裁が他殺と断定した判断過程の一部を不合理だと指摘しました。 ▼“不倫女性との新生活を切望” “複数の嘘が露見する絶対絶命の状況” “検索履歴からうかがえる計画と符合” 改めて他殺と断定 しかし、大阪高裁は、事件前後の被告や被害女性を取り巻く状況や、被告のインターネットでの閲覧・検索履歴を重視しました。事件の前年=2016年から志保さん以外の女性との交際を開始し、2017年4月にはその女性の妊娠が判明。被告の両親が不倫をやめるよう説得したにもかかわらず、その女性と▽指輪を見るためにジュエリーショップを訪れたり ▽ハワイへの“新婚旅行”を申し込んだり ▽モデルハウスを見学したりするなど、その女性や生まれてくる子どもとの新生活を送ることを強く望み、その意思は揺るがなかったと指摘。その上で、女性とのプリクラ写真が志帆さんに見つかり不倫が発覚し、志帆さんやその両親に対して不倫解消や中絶を約束するなど、“協議離婚”と “不倫解消・中絶”という「実現可能性のない複数の約束が露見する絶対絶命の状況」の下で、その解消のためには、“志帆さん殺害以外の現実的な方策はない”と野田被告が決意を強めたと判断しました。また事件の約半年前から、「溺死 殺人」「完全犯罪」「ロス疑惑」「保険金殺人」などの検索をインターネットで行っていた点などにも言及し、そもそも“長期の計画性”もうかがえると指摘。さらに、新生活を待望しながらも被告には浪費癖があり、事件当日時点で預金口座には数万円しか残っていなかった点にも言及しました。結論として「被告は、海水浴中の溺水に見せかけて被害者を殺害し、保険金でまとまった資金を得ようとしていたと考えるのが合理的で、被害女性が溺水し死亡した過程は、その計画に完全に符合する。他殺以外によって実現した偶然は考えられない」と断定。野田被告側の控訴を棄却しました。 ▼野田被告は微動だにせず… 弁護人「上告を検討」 約2時間半の判決言い渡しの間、野田被告はほとんど微動だにせず、裁判長のほうを真っ直ぐ見つめていました。 判決言い渡し後、野田被告の弁護人は「被告と協議した上で、最高裁への上告を検討する」としました。