《アニメ制作会社「京都アニメーション」第1スタジオで発生した放火殺人事件の犠牲者として身元が公表された石田敦志さん(31)=京都府宇治市=の父、基志(もとし)さん(66)が27日、京都府警伏見署で記者会見した。
基志さんは冒頭、集まった60人以上の報道陣を前に、自らの思いを記した文章を読み上げた》
本日は私どもの会見にたくさんお集まりいただき、本当にありがとうございます。うまく話せるかどうか分かりませんが、私どもの思いをお話しさせていただいた後、ご質問をお受けしたいと思います。よろしくお願いします。
私どもの敦志は、私にとっては出来すぎた息子でありました。温厚で人と争うことが嫌いな優しい子でした。夢を追いかけ、高いハードルを何度も自力で飛び越え、夢をかなえました。そして数々のアニメ作品に参加し、私たちに多くの夢と感動を残してくれました。本当に素晴らしい子でした。
小さいころからアニメに興味を持ち、「大きくなったらアニメの仕事がしたい」とよく言っておりました。最初は子供がプロスポーツにあこがれるようなものだと思っていましたが、次第にこれは本気だなと思うようになりました。
けれども私の知る限りでは、アニメ業界のクリエーターは決して恵まれた環境ではないと、調べれば調べるほど不安になり、最初は反対しました。
それでも敦志は決してあきらめず、私が与えた課題を拒否することもありませんでした。きっと親を苦しめたくなかったのでしょう。アニメの勉強と学業とを両立させ、自力で次々とクリアしていきました。
そして私が与えた最後の課題が「京都アニメーション」でした。過酷な環境が多いアニメ業界において、京都アニメーションは唯一と言っていいと思いますが、クリエーターの生活保障がしっかりとしていて、クリエーターを大事にする会社だと知ったのです。もしここに入ることができれば、私も心から応援できると思いました。しかし今思えば、ずいぶん遠回りをさせてしまったと反省しています。
こんなエピソードもございます。入社間もないころ、先輩から「アニメーターはやはり原画をめざすべきだ」というアドバイスをいただいたそうです。そのことに納得しつつも、「動画を自然に、しかも美しく動かすことにも非常に魅力を感じる」と私に言っておりました。じつに敦志らしいなと思ったものです。
自然にしかも美しく動かす、ここにこだわった10年間であったように思います。やっと円熟期に差しかかり、これから彼に本当に磨きがかかり、本当に表現したかった「自然にしかも美しく」に磨きがかかるのを楽しみにしていたのに、31歳の志半ばで逝ってしまいました。
この悲しみと怒りは筆舌に尽くしがたいものがあります。人生の過酷さは知っているつもりでしたが、人生にこんなにも理不尽で、悔しくて、苦しくて、悲しいことがあるとは思ってもいませんでした。胸が張り裂けそうであります。
入社が決まり、敦志の引っ越しのとき、京都アニメーションの本社にごあいさつに行ったときの話です。
社長の奥さまの八田陽子専務がわざわざ対応されて、「この業界に息子さんを送り出すのはさぞご心配でしょう。でもお父さんご安心ください。弊社で3年頑張れば、この業界どこにいっても通用する人材になることは間違いありません。そういう人材しか採用していません。どうか応援してやってください」とのことでした。
私はそのころには既に京アニファンになっておりましたから、「素晴らしい作品を生み出した京都アニメーションで、息子がお手伝いできるのは大変光栄です」と応じると、八田専務は「そうではありません。お父さん、手伝うのではなく一緒に作るんです」と。まだ入社してもいない息子を一人前として処遇する八田専務の言葉に、大変感激したのを今でも鮮明に覚えています。
その後、今回被害に遭った第1スタジオに案内してくださり、有名な監督たちを直接紹介していただき、感激もひとしおでした。最後に玄関口でごあいさつをと思ったときに、その壁に私が京アニ作品の素晴らしさに出会った最初の作品である「AIR」のポスターが目に入りました。私が別れのごあいさつのつもりで「こんな素晴らしい作品のお手伝いをさせていただけるなんて」と言い終わらないうちに、今度は村元(克彦)部長が「いいえ違いますお父さん、一緒に作るんです」とのことでした。その言葉でこれは単なる外交辞令ではないと感じ、ここなら大丈夫だと確信したことを昨日のことのように覚えています。
京都アニメーションは、クリエーターと作品を大事にする素晴らしい会社です。このたび、たった1人の卑劣な犯罪者のために、まだまだ多くの素晴らしい作品を輩出したであろう才能と想像力にあふれた多くの人材が亡くなり、傷ついたことは、私ども遺族や、被害者家族のみならず日本の大きな損失です。なくしてはならない存在です。このような人材は決して一朝一夕にできるものではありません。残念でなりません。
どうかみなさま、これからも敦志が愛した京都アニメーションを応援してあげてください。そして石田敦志というアニメーターが京都アニメーションに確かにいたことをどうか、どうか忘れないでください。心よりお願いいたします。
《準備していた文書を読み上げた基志さん。まもなく質疑に移った》