抗議や電凸、「権利」と「犯罪」の線引きは? 過度な行為は立件も

ある意見が自分の意見とは異なることを主張したり、デモを行ったり-。特定の事象をめぐり、人々が「抗議」すること自体は、憲法21条(集会、結社及び言論、表現の自由)で保障された権利だ。だが暴力や脅迫をにじませるなど、事が一線を越えれば話は別になる。正当な「抗議」とは何なのだろうか。
大阪では「処理水」発言に抗議多数
「大阪湾への放出は反対だ!」「環境や人体への影響は本当にないのか?」
9月17日以降、大阪市役所の秘書部にはこうした100件以上の電話やメールが寄せられた。
引き金となったのは同日の松井一郎市長の発言だ。「自然界レベルの基準を下回っているのであれば海洋放出すべきだ」。東京電力福島第1原子力発電所での有害放射性物質除去後の処理水をめぐり、科学的に環境被害がないとの国の確認を条件に、大阪湾での放出を認める考えを示すものだった。
市秘書部によると、寄せられた意見は、市長の考えに否定的なものが多かったが、「勇気ある発言に敬意を表したい」との声も一部あった。
その後、大阪府の吉村洋文知事も松井市長の考えに同調。これを受け、府の担当部署には約30件の意見が寄せられた。大半が反対を示すものだったという。
「ガソリン携行缶」ファクスで逮捕者も
一方で、こんなケースも。
8月1日に開幕した国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」。元慰安婦を象徴する「平和の少女像」や昭和天皇の肖像を燃やすような映像が出品されたとして批判が殺到し、実行委が開幕3日で中止を決めた。
愛知県の検証委員会によると、8月中に実行委や県に寄せられた抗議は計1万379件。このうち電話は3936件だった。
本来、賛成や反対にかかわらず、意見の表明は自由で、誰にも制限されないはずだ。
ただ、検証委によると、中には電話に出た職員やその家族に対して中傷を加えたり、県内の教育施設にガソリン散布を予告したりするものもあったという。
さらには、「ガソリン携行缶を持っておじゃまする」などと書いたファクスを送ったとする男が、威力業務妨害容疑で逮捕される事件も起きた。
一線を越えた抗議は状況次第で犯罪となるのは明白だ。
電凸で五輪や万博つぶせる?
検証委では「電凸(でんとつ)」という現象でも意見が交わされた。インターネットの掲示板から発生した隠語で、いわゆる「電話突撃」の略。対象の企業や団体に次々と電話し、考えを直接問う行為だ。
《あなたバカじゃないの? 本も読んだことないの? これは意見じゃなくて私の要望なの!》《妨害せざるをえない。犯罪になるかもしれないけど》
激しい口調で職員に詰め寄る女性や、違法行為を示唆する男性。検証の場では電凸と認定した4件の電話の音声が公開された。このほか、執拗(しつよう)に職員の氏名を聞き出そうとする人もいたという。
検証委メンバーで文化政策研究者の太下(おおした)義之氏は「電凸のマニュアルがSNSで共有された」「(電凸は)ソーシャルメディア型のソフトなテロだったのでは」と指摘。その上で「来年の(東京)オリンピックや2025年の(大阪・関西)万博をつぶそうと思う人たちがいたら、電凸というフォーマットと脅迫を組み合わせることで、容易に達成しうる可能性があるということだ」と危惧した。
一方、SNS上では《展示内容を批判する「自由」はないのか》《抗議電話を一方的に電凸やソフト・テロと決めつけるやり方はどうなのか》などと否定的な意見も目立っている。
抗議や電凸の“一線”について「相手方にどんな影響を与えるのか次第で、名誉毀損(きそん)や業務妨害が成立する可能性がある」と話すのは、近畿大の辻本典央教授(刑事訴訟法)だ。電話を取った相手の氏名を執拗に聞く行為についても「状況によっては許されることもあるが、その抗議活動に本当に必要なのかどうかが問題となる」(辻本教授)という。その上で、(1)目的が正当か(2)見合った手段なのかかどうか-が争点になるとの見方を示した。