警察犬育てる一家、孫も指導士へ…親子3代で「県民の安心安全を守りたい」

凶悪事件の容疑者や行方不明者の捜索などに当たる埼玉県警の嘱託警察犬の指導士として、さいたま市浦和区の専門学校生、羽鳥雄太さん(18)が6月にデビューする。祖父と父も現役の指導士で、親子3代で「県民の安心安全を守りたい」と決意している。(立原朱音)
「探せ!」
5月下旬、訓練場所となっているさいたま市浦和区の私有地で、雄太さんがシェパードのアレックス号(8歳)に声をかけた。
臭いを頼りに、埋められた豚足入りの靴下を探す訓練で、しばらくするとアレックス号は見つけた靴下を前脚で掘り起こして持ってきた。雄太さんから「よくできたぞ」と頭をなでられると、うれしそうに尻尾を振っていた。
「社会に貢献する姿がかっこよかった」

雄太さんは、指導士になることを決意した今年1月から、アレックス号の訓練を本格的に開始。4月、県警の審査会に初参加し、合格した。動物看護師の資格を取得するため専門学校に通いながら、初出動に備えて訓練を重ねており、「だんだん心が通じ合うようになってきた」と手応えを感じている。
雄太さんの祖父の敏雄さん(72)と父の文仁さん(45)は、「浦和第一警察犬訓練所」を営んでいる。曽祖父の忠夫さん(2002年に死去)が創立した70年以上の歴史を持つ訓練所で、警察犬だけでなく、一般客のペットを預かり、かみ癖や無駄 吠 (ぼ)えなどを直すしつけ訓練も担っている。
19年にさいたま市見沼区で小学4年の男児が行方不明になった時には、男児の遺体を発見し、県警が殺人事件としての捜査を始める糸口になった。昨年10月に蕨市の蕨郵便局で発生した立てこもり事件でも、現場に急行した。
年間30件ほど出動するという文仁さんは「行方不明の高齢者が見つかって、泣きながら警察犬の頭をなでてくれる家族も多い」と、やりがいを語る。
雄太さんは高校卒業を控え、進路に迷っていた昨春、捜索現場から帰宅し、反省点を真剣な表情で話し合う祖父と父の姿が頭に浮かんだ。「社会に貢献する姿がかっこよかった」と2人の背中を追うことを決めた。
「わからないことだらけで、自分が犬に助けられている」と苦笑いする雄太さん。敏雄さんは「犬と信頼関係を築き、訓練を楽しいと思わせるような指導士になってほしい」と、孫の成長に期待を寄せている。

今月21日、県警本部で警察犬66頭と指導士23人に今年6月から1年間の活動が嘱託された。菅谷 大岳 (ひろたけ)刑事部長は「日頃から訓練を重ねていただき大変心強い。積極的な出動をお願いする」と激励した。
◆嘱託警察犬=民間で飼育、訓練する警察犬。県警からの要請を受けて出動する。わずかな「謝金」は支払われるが、ボランティアの側面が大きい。県内では昨年142件出動し、そのうち9割が行方不明者の捜索だった。