防衛大学校の学生寮(神奈川県横須賀市)で上級生らに暴行やいじめを受けていたにもかかわらず、教官が適切な対応をしなかったとして、福岡県内に住む元学生の20代男性が国に約2300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が3日、福岡地裁であった。足立正佳裁判長は「教官らが暴力行為を予見するのは困難だった」とし、原告の請求を棄却した。
判決によると、上級生らは男性が入学した2013年4月から14年6月、同大で慣習の「学生間指導」の名目で、消毒用アルコールで体に火を付けたり、殴る蹴るなどの暴行を繰り返したりした。
足立裁判長は、教官に対し「積極的に事態を調査して対応をとることが望ましかった」と指摘したが、学生からの報告や明らかな異変などの端緒がない限り予見は困難だったと結論付けた。
また、防衛大についても面談やカウンセリングの相談室設置など対策をとっており「いじめの早期察知や再発防止につながる人的、物的体制は一定程度整備されていた」として組織としての安全配慮義務違反も否定した。
その一方で、足立裁判長は、防衛大が幹部自衛官としての指揮能力育成のため導入している、上級生らが下級生を指導する「学生間指導」について、一部は支配的な意識のもとで実施され「学生の生命などに危険がないとはいえない」と問題点を指摘した。
判決後、男性は「事実内容を認めながら、防衛大には責任がないという判決で、納得できない」と憤った。
男性は15年3月に退学。心的外傷後ストレス障害(PTSD)や、国から難病指定されている潰瘍性大腸炎と診断された。男性が上級生らに賠償を求めた訴訟は、上級生7人に計95万円の支払いを命じた今年2月の福岡地裁判決が確定している。【宗岡敬介】