記録的な大雨に見舞われた九州北部は29日も局地的に激しい雨が降った。孤立状態が続く佐賀県大町町の順天堂病院には自衛隊などがボートで食料品や救援物資などを運んだが、孤立は解消できず、入院患者ら184人は2階以上で避難したままだ。国土交通省は、近くの鉄工所から流出し、病院を取り囲む水に混じった約5万リットルの油の除去を進めており、30日中の孤立解消を目指すとしている。
29日には同県武雄市北方町の浸水した住宅の1階で、この家に住む96歳の女性が溺死しているのが新たに見つかった。一連の大雨による死者は佐賀、福岡両県で3人、意識不明が1人、行方不明が1人となった。
一方、佐賀県内で浸水被害が拡大したのは、支流や用水路の水が河川の本流に流れ込まずあふれ出る「内水氾濫」が相次いだのが原因だったことが、同省武雄河川事務所などへの取材で判明した。佐賀平野付近では28日午前4時台に、1時間に約110ミリの雨を観測。満潮の時間が近づき水位が上昇していたところに、記録的な大雨が重なった。しかも佐賀平野を流れる川は勾配が緩く、有明海との高低差が少ないために海に流れるスピードが遅い。
同事務所は、過去に浸水被害が相次いだ六角川水系の本流の堤防決壊を防ぐとともに、支流や用水路より水位が高くなった本流から支流への逆流を防ぐため、支流や用水路と本流の間の水門を閉鎖し、本流に排水するポンプも停止した。その結果、あちこちで支流や用水路から水があふれ出た。ただこうした対応をしても牛津川では、堤防から水があふれる「越水」が少なくとも3カ所で発生した。過去の浸水被害の教訓で整備した遊水池も満水になった。
佐賀大の大串浩一郎教授(河川工学)は「佐賀平野は海抜ゼロメートル地帯が広がっており、粘土質で水はけも悪く、内水氾濫は宿命とも言える。住民の避難対策を進めるとともに、豪雨が予想される場合は事前に用水路の水位を下げておくなどの対策を引き続き検討すべきだ」と指摘した。【平川昌範、池田美欧】