石川・輪島の漆芸家、工房被害も前へ「またここから一歩ずつ」

石川県能登地方の記録的豪雨は、元日の能登半島地震の被害を乗り越えようとしていた人々の生活を直撃した。
「1分ごとに水位がどんどん変わっていく。川の中に家や車があるみたいな状況だった」
同県輪島市堀町の漆芸家、桐本滉平さん(31)は濁流に迫られた瞬間をこう振り返る。
元日の地震とその後の火災で自宅兼工房が全焼した桐本さん。大雨があった今月21日朝は、両親の避難先である市内の平屋で朝食を食べていた。
午前8時ごろ、防災アプリの通知で外の様子を見たときには、雨が強いなという程度の印象だった。しかし、1時間半後に窓の外を見ると、畑や田んぼが濁流に飲まれてみえなくなっていた。
「避難すべきか」。考えているうちに60センチほどの高さの濁流が自宅に押し寄せ、家から一歩も出られない状況に。「まるで川の中に家や車があるみたいだった。流されるんじゃないかと恐怖を感じた」という。
地震で輪島塗に使う道具などを全て失った。それでも、伝統工芸を絶やさないと決意。コンテナを借りて工房にし、インスタントハウスを物置として仕事を再開した。
作品販売も始めていこうとした矢先の豪雨。幸い人的被害は免れたが、再出発の拠点は浸水被害を受け、工具や床に置いていた段ボールなども水浸しとなった。「もう一度、震度7の地震が来ると思って、物を全部平置きにしていた。震災対策が水害のダメージに直結してしまった。全く予測ができていなかった」と肩を落とす。
今は地域の人たちで助け合いながら片付けや掃除を進めている。「祈っても仕方がない」と桐本さん。覚悟を決め、こう語った。「震災からの復興の最中なので、その熱量を冷まさないようにしたい。またここから一歩ずつ進んでいきたい」。(安田麻姫)