沖縄県が米ワシントンに「独自外交」ロビー会社、9年明かさず…事実と異なる書類で就労ビザ

沖縄県が米ワシントン事務所を運営するため、営業実態のない株式会社を米国に設立していた問題は、事実に反する書類で米政府に駐在職員の就労ビザ(査証)を申請していたことが判明し、存廃を巡る議論に発展した。いびつな実態は会社設立から約9年間、県議会にも報告がなく、県民の目に触れる公文書にも記載されていなかった。米軍基地の県内移設阻止を掲げた知事の「独自外交」という異例の政策の水面下で、何が起きていたのか。(横山潤)

「本庁で株式会社設立の手続きを行ったことは確認できていない」。今月上旬の県議会特別委員会。「起案・承認は誰が行ったのか」と問われた県幹部は、こう答えるのがやっとだった。
県などによると、事務所は翁長雄志(おながたけし)前知事(故人)時代の2015年4月、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設反対などを米側に直接訴える目的で開設された。米国務省からは当初、「政治的だ」との理由で非課税事業者としての登録に難色を示された。
駐在職員のビザが取れなければ活動はできない。米国弁護士の助言を受け、企業の転勤者向けに発給される「L」ビザの取得を模索した。県の100%出資で株式会社「沖縄県ワシントン事務所」を設立し、ビザを取得。提出した資料では職員の肩書を「社長」「副社長」などとしていた。
県側が起案・承認者を説明できないとするのは、弁護士費用を含む全対応を米国のコンサルティング業者に年間約7000万円で業務委託しているためだ。実質的な「丸投げ」状態で、県議会からは「委託すれば見えない形で会社を作れるのか」と批判が噴出した。決算書も未作成で、県保有の株式も公有財産登録がなされていないという。

会社の存在は、県議会や県民のチェックが働かない状態に置かれていた。
知事には地方自治法上、資本金等の2分の1以上を出資する株式会社の毎年の経営状況を議会に公表する義務がある。だが、一度も公表されたことはなく、玉城デニー知事は10月末の記者会見で「先日、事務方から報告を受けた」と述べ、自身も知らなかったことを明らかにした。県幹部は「業務委託の中で設置されており、知事に説明していなかった」としている。
県制定の「公社等の指導監督要領」の公社一覧にも社名はなかった。県行政と密接な関連を有する法人などが対象とされ、国外の法人を除外する規定はない。
「疑惑」を追及する自民党の新垣淑豊(よしとよ)県議は「これまで県の出先機関だと思っていた」と憤る。

自治体が外国に事務所を設置するケースは多いが、通常は経済や観光、文化などの交流目的で、外国政府や議会に政治的働きかけを行う「ロビー活動」を目的とするのは異例だ。
自治体による政治的活動に難色を示した米政府だが、沖縄県の関係と分かる同社については、外国のロビー活動をする代理人登録に関する外国代理人登録法(FARA)に基づいて登録され、県側はロビー活動を継続できている。
しかし、県側は現在の駐在職員のビザ取得に際し、米移民局に対して「(職員は今後も)沖縄県から直接雇用されることはない」と記した資料を提出していたことが判明。実際には県職員のままで事実に反するが、県側は「そう記載しないと審査を通過できない」として問題ないとの立場だ。
ニューヨーク州弁護士資格を持つ天方徹弁護士(沖縄弁護士会)は「米国においても県職員であることに変わりはない。自治体がこうした虚偽申請のような手法を取るのは極めてゆゆしき事態だ」と指摘する。
米国の就労ビザに詳しい上野潤弁護士(東京弁護士会)は「重要な事実を意図的に偽って申請した場合、移民法違反で入国不適格と判断され、領事官の裁量でビザが取り消される可能性がある」としている。
自民会派は廃止へ追及

事務所が開設されたのは、辺野古移設に反対する政治勢力「オール沖縄」を率いた翁長前知事の就任間もない時期だった。翁長氏肝いりの政策で、後継の玉城知事に引き継がれた。就任前の手続きが問題視された玉城氏は戸惑いながらも「説明できるよう調査する」と慎重に対応している。
移設容認の自民会派は「成果が乏しい」と事務所を疑問視してきたが、知事与党が多数派を占める中で維持されてきた。だが、6月の県議選で多数派に転じた自民は、監査請求や来年度経費の予算案反対も視野に事務所を廃止へ追い込み、2年後の知事選に向けた攻勢につなげたい考えだ。