先日、9月17日に東京都内でSlackのパートナーイベント「Frontiers Tour Tokyo」が開催された。FrontiersはSlack本社のある米カリフォルニア州サンフランシスコで毎年4月に開催されているイベントだが、開催拠点を米国外へと拡大しつつあり、今回のFrontiers Tour Tokyoは日本かつアジアでは初の開催となる。
2017年11月のSlack Japan設立から1年半が経過し、Slackソフトウェアの連携先となるアプリケーションのエコシステムや導入事例は日増しに拡大しつつある。もともと日本法人設立以前より、米国内外で急速に活用が進んだSlackを研究して先行導入するユーザーは少なくなかったが、拠点を正式に設立し、ユーザーへの導入やパートナー支援体制を強化したことで、導入に弾みがついたという流れだ。
数々のユーザー事例も興味深いのだが、今回着目したのはむしろSlack自身の話だ。日本オフィスを見るだけでも、わずか1年半程度で従業員は一気に5倍に膨れあがっており、スペース的に余裕のある新オフィス移転後はさらに採用活動が活発化しているという。
オフィスを数カ月ぶりに訪問してみると、知らない顔がいつの間にか一気に増えているということも珍しくない。こうした新しい従業員の業務支援にも、もちろんSlackが活用されており、増え続ける従業員とのコミュニケーションになくてはならないものとなっている。
今回、こうした“Slack内”でのSlack活用について、米Slackの人事担当シニアバイスプレジデントであるRobby Kwok氏に話を聞く機会を得た。同氏はYahoo!やLinkedInで事業戦略や経営企画を担当し、前職となるTwitterではもともと在籍していたTellApartの事業運営を引き継ぐ形で同社に参画。Slackに参加したのは3年半前で、当時はまだ400人程度の従業員で全世界3拠点しかなかった会社が、現在では1800人規模の12拠点と4倍以上に拡大している。この急拡大しつつある組織で、どのようにSlackは利用されているのだろうか。
Slack新入社員に行われる本社オリエンテーションの内容とは
前述のように世界規模で急拡大しつつあるSlackだが、実際には従業員の多くは米国ベースだ。一方で、拠点を持つ欧州やアジアでの従業員が増えつつあり、こうした世界拠点をまとめるべくリージョン担当のリーダーを採用している。
日本でいうと佐々木氏がそれに該当するが、選定の基準は「Slackの文化をきちんと理解していること」とKwok氏は説明する。Kwok氏のSlack内での役割は主に4つあり、1つはこうしたリーダーを含む採用活動、2つ目は人材管理、3つ目は福利厚生、そして4つ目に教育や関連プログラム開発がある。
ここはSlackらしいところなのだが、今回同氏が来日する際にも、事前に世界の複数拠点間での打ち合わせがSlack上で行われており、必要な情報の共有や訪問先で会う人物の情報などをあらかじめ理解した上で出張後の業務に備えている。
その一方で、人材開発における対人コミュニケーションの重要性も認めており、例えば新たに従業員となった人々は全ていったんサンフランシスコのSlack本社へと集められ、そこで3日間のオリエンテーションを受ける必要がある。
こう聞くと、日本の大企業でもよくあるような新人研修の合宿オリエンテーションのようなものを想像するかもしれない。だが、実際には3日間のカリキュラムの中で、時間の多くは「Slackのツールとしての使い方」の説明や実践に費やされ、このうちの残りの時間をSlackカルチャーの理解や、Slackのエグゼクティブらを含む本社メンバーとの交流会に割り当てられる。
「Slack(という会社)を知るには、まずSlack(というツール)を知れ」というのはなかなかに面白い。時間と場所を選ばないSlackというツールながら、わざわざ1カ所に人を集めて毎週のように新人研修を行っているというのも興味深い。
オリエンテーションの中で行われるSlackの使い方では、Slackに慣れ、そのカルチャーを学習するだけでなく、より重要な部分に「複数の異なるチャンネルに参加する」というトピックがある。とっかかりの部分ではあるが、単純に業務に直接関係するチャンネルだけでなく、自身が興味のあるチャンネルに参加してみるということがポイントだ。
例えば、Kwok氏自身、社内で多くのチャンネルに参加しているが、その中の1つに同氏の大好きなバスケットボールがある。同好の士と共通の趣味について話すなかで、参加者がどのチームを好きで、どの選手が好きかを理解している。実際に会う段階に至って、別々の拠点にいながらもすでに共通の話題を持ち、相手のことを深く理解した上で話がスムーズに進むという流れだ。先ほどの来日前のミーティングや事前の情報共有に近い考え方だが、趣味を通じて相手の特性を理解するのもSlackの使い方の1つだ。
人事面でどうSlackや各種ITツールを活用していくか
入社時のオリエンテーションで重要なのは、Slackでの業務に取り掛かるための「きっかけ」の部分だが、その後にそれぞれの拠点へと散って実際に業務を始めた段階において、ツールとしてのSlackには、Slackという組織での業務を助けるさまざまな仕組みが存在する。
例えば、Slack社内には「help-」で始まる多くのチャンネルが用意されており、「help-benefits(福利厚生)」「help-recruiting(採用活動)」といった具合にトピック別の相談窓口となっている。ここにはKwok氏の人事チームが監視する形で存在し、従業員らの質問に回答している。
もちろん、Slackなので過去の履歴をさかのぼって以前に行われたやりとりを把握することもでき、これ自体が一種のFAQ(よくある質問)として機能している。
Slackにおける社内チャンネルは、東京などの拠点別、営業などの組織別に用意されている。自身が東京の営業チームに所属しているのであれば、必要な連絡事項を把握するためにグローバルでの連絡チャンネルに加え、東京のチャンネル、営業のチャンネルの3つに参加することで、チャンネルをまたいで最低限必要な情報へとアクセスすることが可能になる。
このようなパブリックチャンネルのほとんどは誰もが投稿できる仕様になっている一方で、通知範囲の広いグローバルチャンネルなどでは投稿者に制限がかかっており、リーダーの権限を持っている人物しか投稿できない。一方でパブリックではない業務別のチャンネルなどでは特に投稿制限がないため、そのテーマに該当する職能の人物であれば自由に投稿できる。
こうしたパブリックではない、情報にアクセスする権限が設定されたチャンネルの典型的なものが人事関連だ。Kwok氏が担当する採用活動でも専門のプライベートチャンネルがいくつか社内に用意されており、選考のインタビューごとにチャンネルが設定され、候補者への給与や肩書、入社日といった提案が担当の間で相談されることになる。
相談事についてはSlackが活用されるが、実際のリクルーティング活動や人事管理、査定などは、Workday、Greenhouse、Latticeといったサードパーティー製ツールの数々が活用されており、Slackと連携させていくなかで融合している。このあたりはSlack単体ではなく、あくまで外部のアプリケーションやサービスと連携することでSlack自体の強みが生かされることを示す好例だろう。