逮捕後に不倫相手に届いた手紙には「一分一秒でも早くあなたの元に帰ります」 妻子殺害などの罪で無期懲役の判決を受けた男 裁判で明らかになった殺害の経緯と動機

2024年11月22日、新潟地裁で1人の男に無期懲役の判決が言い渡されました。 男は自宅で妻(当時29)と長女(当時1)の首を絞め殺害した罪など4つの罪に問われていました。 8回の公判では、検察側が”殺害の動機”とした元不倫相手の女性も証言台に立ちました。女性が明らかにしたのは、逮捕後に男から届いた手紙でした。
被告が問われた4つの罪
新潟市南区の元看護師、渡辺健被告(31)は4つの罪に問われていました。
◆妻に睡眠薬入りの飲み物を飲ませ、交通事故を起こさせた殺人未遂の罪 ◆妻を殺害しようと考え、当時勤務していた病院から塩化カリウム10本を盗んだ殺人予備と窃盗の罪 ◆自宅で妻と長女の首をロープで絞め、窒息死させた殺人の罪
冒頭陳述で検察側は、一連の犯行を“不倫相手との関係を続けるために障害となる妻子を排除するため”だったと主張していました。 裁判では、その元不倫相手の女性が証言台に立ち、約3年に及ぶ被告との関係について証言しました。
職場の“先輩後輩の関係”から不倫関係に 妻にすぐばれるも…
渡辺被告と女性とは職場の先輩後輩の関係でした。不倫関係になったのは、事件の約3年前、2019年10月のことでした。
検察官:「既婚者であることは知っていた?」 女性:「はい」 検察官:「不倫関係を疑われたことは?」 女性:「あります」
2人の関係に気付いた渡辺被告の妻が、渡辺被告のアカウントで、メッセージを送ってきたこともありました。
検察官:「その後、関係は?」 女性:「続けました」 検察官:「なぜ?」 女性:「自分としても気持ちがあったので」
2020年1月ごろには、渡辺被告の妻から慰謝料の請求に関するメッセージが届きました。女性が渡辺被告に相談すると、渡辺被告は「そこ(慰謝料請求)まではやらないんじゃない」と答えたそうです。 しかし、結局女性は慰謝料として50万円を支払うことに。また、妻の弁護士との間で、“今後プライベートなどで連絡を取らない”という文書を交わします。 しかし、その後も渡辺被告との不倫関係は続きます。
検察官:「それはなぜ?」 女性:「気持ちがあったので続けました」
不倫関係を始めてから約1年後、渡辺被告に長女誕生 女性は「2人で会うのやめたい」と告げるもー
検察官:「(長女誕生を)知ったきっかけは?」 女性:「職場の人が話をしていたこともあったし、被告の車にチャイルドシートが乗っていたので」 検察官:「子供ができたことを知ってどう思った?」 女性:「奥さんとの関係も順調そうなのに、なんで自分と会い続けるのかな?と。関係をやめないといけないと、ずっと思っていた」
2020年の冬、女性は渡辺被告に「もう2人で会うのはやめたい」と告げました。
検察官:「被告の反応は?」 女性:「まだ会うのはやめたくないと言われました」
2月に自宅で渡辺被告と会った際にはー
女性:「(渡辺被告は)”やっぱり会うのは最後にしたくない”と。”私の誕生日があるのでそのことを考えていた、誕生日をお祝いするつもりで休みを取っていた”と」 検察官:「何と答えた?」 女性:「私はやめたいと伝えました」
その後、しばらく会わなくなりましたが、再び渡辺被告から連絡が来ました。
女性:「会うのやめてから元気が出ないということで、”もう1回会いたい”と」 検察官:「あなたは何て言いましたか?」 女性:「考えたいと言った」
結局不倫関係は再開し、誕生日も一緒に過ごしました。
検察官:「誕生日で覚えていることは?」 女性:「出かけたり、ケーキを買って家で食べたり」
渡辺被告の新居が建つまでの約4カ月間、女性の自宅で同棲生活を送ることにー
渡辺被告は、殺人事件の現場となった新居を建てることになりました。新居が建つまでの間ー
女性:「私の家に居候とみたいな形で一緒に生活したいと話がありました」 検察官:「奥さんはどこに?」 女性:「実家に帰ると言っていました」 検察官:「それを聞いて、あなたはどう思いましたか?」 女性:「奥さんとの関係が順調の中で、自分との関係を続けるのかなと思っていました」
検察官:「被告人は?」 女性:「”離婚を考えている”と。”私との関係を正式な形で進めていきたい”と」 検察官:「もし離婚したらお子さんはどうなると?」 女性:「奥さんが育てるのかなと思っていました」 検察官:「もし被告人がお子さんを引き取ると言ったら?」 女性:「その時になってみないと何とも言えないですけど、すぐに賛成できる感じとは思っていなかった」 検察官:「それは何で?」 女性:「自分が育てる自信がない」
検察官:「今後について聞いたことは?」 女性:「あります」 検察官:「どんなことを?」 女性:「自分との将来の話だったり、離婚の話だったり」 検察官:「奥さんとの生活を比べるような話をしたんですかね?」 女性:「奥さんとの生活と比べて不満はないかと話はしました」 検察官:「これに対して被告は?」 女性:「”不満はないよ”と」 検察官:「新居で暮らすと聞いてどう思ったか?」 女性:「奥さんと離婚を考えているとあったけど、離婚について話は進むのか不安がありました」
女性は、渡辺被告が本当に離婚をするのか不安になったため、「年内に離婚の話が進んでいなければ、諦めてこの関係は終わる」と告げました。
検察官:「それに対して被告は何と言いましたか?」 女性:「”1年以内に奥さんとの関係をはっきりさせるまではいかなくても、話はする”と」
しかし、後日、渡辺被告から「離婚話がなかなか進まない」と伝えられます。
女性:「離婚について話はしてるけど、(奥さんは)まだ私との関係が続いていて離婚の話をしてるんじゃないかと考えていて、話が進まないと言われた」
離婚話は進まず不倫関係は継続 妻と娘が殺害された日も密会を
渡辺被告が妻子を殺害したのは2021年の11月7日。その日の未明も、渡辺被告は女性にメッセージを送っていました。
▼11月7日 午前1時27分 渡辺被告→元不倫相手 「今から行きます」
▼11月7日 午前4時頃 元不倫相手→渡辺被告 「きのうも健さん可愛かった。きょうは特に可愛かった。もっと一緒にいたいって言ってくれるのすごく嬉しい」
この約6時間半後、渡辺被告は妻と長女の首を絞めて殺害したということです。
判決では、殺人に関する次のような事実が認定されました。
妻は、婚姻後、間もなくして被告人による不倫や預金の使い込みがありながらも、変わらず夫婦であり続けようとし、長女の誕生後はひたむきに育児に励みつつ、新居で被告人と共に新生活を始めた矢先、被告人に裏切られ、最期は長女の目の前で命を奪われた。
愛する我が子を育てることも、その成長を見届けることもできないまま命を奪われた無念さは察するに余りある。
長女は、当時1歳になったばかりで、周囲から愛され、本来父親である被告人に庇護されるべき立場にあったのに、その被告人から突然殺害されたものである。 妻の悔しさ、無念さ、悲しさ、絶望は筆舌に尽くし難いものといえるし、長女の死も痛ましいというほかない。
殺害の態様は、ロープを用いて2名を手早く絞め殺すというものであった。 被告人は、まず妻に対して、背後から近づいて突如首にロープをかけ、これを外そうともがく妻の抵抗を排して2、3分絞め上げ、ぐったりとして鼻から血が出ていたにもかかわらず、手が震えているように見えたため、まだ息があると考え、 再度首を絞め上げて、完全に動かなくなったことを確認した。
続けて、妻を起こすようにその肩辺りをたたく長女を見て、その首にロープをかけて絞め始め、眼前で苦しそうに泣く姿にも構わず、2、3分間力を緩めず絞め続けた結果、泣くこともできなくなってぐったりとしたにもかかわらず、鼻提灯が膨らんでいるのを見てまだ息があると考え、再度首を絞め上げて、完全に動かなくなるまで続けていた。
いずれも一度目に相応の時間を掛けて首を絞め上げているにもかかわらず、僅かでも生きている可能性を認識するや再度絞め上げて息の根を止めたのであり、強固な殺意に基づく極めて悪質なものといわなければならない。
絞殺するため事前にロープを購入したり、窒息死に至る時間や血痕の拭い方を事前に検索するなど、犯行は計画的である上、殺害後は稚拙ながらも妻による無理心中に見せかけるため、妻の携帯電話機を用いて遺書を作成したり、ロープを現場に垂らしておくなどの偽装工作も行っており、犯行後の情状も相当悪い。
逮捕後、渡辺被告から送られてきた手紙の内容とは
女性は、渡辺被告が逮捕されてから半年後に、面会に行ったと明かしました。
女性:「面会の時、“待っている”という内容を言いました」 検察官:「どういう意味で言ったんですか?」 女性:「逮捕されて、もし出てきたのであれば一緒にいるという意味で言いました」 検察官:「被告人は何と言った?」 女性:「”自分のことを一番に考えてほしい”と。”待っていると言ってくれるのであれば待っててほしい”と」
その後、2人は手紙でやり取りを続けました。
検察官:「どんな内容の手紙が来ましたか?」 女性:「”ずっと思っている”だったり、”少しでも早く私のところに戻って一緒になりたい”」 検察官:「他に覚えていることは?誓いに関することは?」 女性:「”今後一生の誓いを立てる”と、味方でいる気持ちっていう内容でした」
検察側の主張によりますと、渡辺被告は女性に対して次のような内容の手紙を送っていました。
「あなたへの想いは変わらない、今もこれからも先もずっと、生涯何があっても俺はあなたの味方であり続けます。一分一秒でも早くあなたの元に帰ります。ずっと伝えたかった言葉で貴女に一生の誓いを立てさせてください」
最後に今後、渡辺被告との関係をどうしたいか聞かれた女性は…
女性:「時間がたって冷静に考えられるようになって、ご遺族の方に対して申し訳ない。今は恋愛感情は一切ないですし、健さんとの未来は考えていない。今は」
被告に言い渡された判決はー「殺害への執拗さが目に余る」
11月22日、渡辺被告に判決が言い渡されました。
「主文、被告人を無期懲役に処する」
被告側は、殺人未遂の罪と、殺人予備の罪について無罪を主張していました。判決で新潟地裁は、殺人未遂の罪について「妻が睡眠薬入りの飲み物を飲んでいたことを認識したうえで運転を止めなかった」と指摘。殺人予備の罪については、インターネットで、”塩化カリウムの致死量”などを複数回検索していたことから「妻を殺害しようと考えていたものと認めるのが相当」と、殺意を認めました。
そして次のように指摘しました。
少なくとも妻に対しては、徐々に殺害への意欲を高める中で都度殺意を生じ、遂には殺害を実現したものといえ、殺害への執拗さが目に余る。
妻殺害の動機は、不倫相手との関係に居心地の良さを覚え、仲が深まっていく一方で、不倫や使い込みが発覚して家庭内で肩身の狭さを覚えるようになった結果、妻への不満が高まったが故のものといえる。自身の非を棚上げにした極めて自己中心的で身勝手なものというほかない。 長女殺害に関しても、不倫相手との関係性の高まりが背景にあったといえ、妻の殺害を目撃され、恐怖を覚えたことにも動機の一端があるとしても、これまた誠に身勝手である。 他方で、いうまでもなく、被害者らには何らの落ち度もない。経緯や動機に酌むべき点は皆無である。
また、看護師である被告人が、その知識、技術及び立場を悪用し、本来治療目的で使うはずの薬剤等を利用して殺人未遂及び殺人予備等の各犯行に及んだことも強い非難に値する。 被告人の刑事責任は極めて重大である。
以上のほか、被告人は、勾留中、被害者遺族に対する謝罪文を作成する傍らで、不倫相手に対し恋文を送っていたほか、公判廷において、2名殺害の事実自体は認めつつも、殺人未遂及び殺人予備等に関しては不合理な弁解を繰り返し、自己の責任を矮小化しようとする態度に終始しており、自己の犯した罪の重大さに真摯に向き合っているとも言い難い。
被害者遺族は、理不尽な経過で、愛する家族2名を奪われたことはもとより、このような犯行後の著しく不誠実な態度や公判における身勝手な言動によりその心情は踏みにじられている。妻の実母は被告人に対して二度死んでほしいと悲痛な心境を述べており、遺族が極刑を求めるのも至極当然である。
先にみた犯情の悪質さを主としつつ、このような事情も踏まえれば、被告人の父が被害者遺族に合計390万円の被害弁償をしていること、被告人の父が出廷し今後も被告人に関わっていく旨述べていること、被告人が2名殺害の事実自体は認めていること、前科前歴がないことなど、被告人に有利な事情を最大限考慮しても、本件に関しては、有期懲役刑を選択すべきとは到底いえず、被告人を無期懲役刑に処することが相当である。 よって、主文のとおり判決する。
判決が読み上げられている間、遺族席からはすすり泣く音が聞こえてきました。
微動だにせず、判決を飲み込むように聞いていた渡辺被告。 被告側は、12月4日付で控訴しています。