引かない水、漂う油の臭い――。大雨で流出した油混じりの水に囲まれ、孤立状態にある佐賀県大町町の順天堂病院では、29日早朝から自衛隊がゴムボートを使って交代の職員や食料、水などを送り届ける作業が続いた。同県武雄市では、新たに足腰の弱い1人暮らしの高齢女性の死亡を確認。交通網は一部で復旧が始まったが、乱れが続いている。【佐野格、浅野孝仁、山口響】
「直接家に助けに行けば」
29日未明に90代の女性が遺体で見つかった、武雄市北方町志久の住宅の近所に住む主婦によると、女性は1人暮らしで、足腰が弱っていたという。付近は28日午前中には胸付近まで水につかる状態となり、住民らは消防のボートに救出されて近くの公民館に避難した。しかし、女性の姿が見当たらず、消防などが捜していた。また、28日午前8時ごろにこの女性に電話したという別の住民(78)によると、女性は「(水かさが増えても)2階に上がるから大丈夫」と話していたといい、「直接家に助けに行けばよかった。悔やんでも悔やみきれない」と肩を落とした。
「水足りず、医薬品底をつくかも」
武雄市と隣接する大町町の順天堂病院では、取り残された入院患者ら向けの物資と交代要員の輸送が続いた。
27日から勤務し、自衛隊のボートで病院を離れた非常勤医師の曽和信正さん(67)や20代の看護師によると、病院は1階部分が浸水。医療機器や敷地内にある老人保健施設1階の入居者は、2階以上に移動させた。
曽和さんは「電気は通っていて、重症患者も容体は安定している。ただ、ボートでの移動は困難だろう。28日は院内に黒い油が流れ込み、異臭がしていた」と話した。女性看護師は「トイレや手を洗う水が足りず、医薬品がこのままでは底をつくかもしれない」と心配した。また、交代のため病院に向かった別の20代の看護師は「少人数で勤務が続いているスタッフと交代してあげられればと思って駆け付けた」と話し、ゴムボートに乗り込んで病院へ向かった。
佐賀県によると、病院内の食料品の備蓄は29日分でなくなる見込み。水道も止まり貯水タンクの水を使っている。病院側の要請を受け、県が同日中に供給する準備を進めている。
「エレベーター利用できず非常階段で上り下りが大変」
佐賀市のJR佐賀駅は29日午前、前日に浸入した構内の水は外にかき出され、通勤先や学校に向かう利用客の姿が戻った。しかし、長崎県の佐世保方面に向かう列車などは運休が続くなど、大雨の影響はまだ残っている。
兵庫県川西市から出張で佐賀市に来たという公務員の男性(63)は「昨日戻る予定だったが、電車もなく宿泊を延長した。ホテルのロビーまで水が入り、エレベーターも利用できなかった。非常階段で上り下りするのが大変だった」と話した。
駅に勤務するJR九州の福田大さん(19)は「運行している列車は遅れもなく、比較的順調に動いている。同じようなことが起きるかもしれないので、天気の動向には注意したい」と話した。