個人の生活だけでなく企業活動にも影響が出ている能登半島地震。 新潟市西区で、さまざまな選択を強いられた経営者の1年を追いました。
新潟市西区大野では、土砂災害の恐れがあるとして地震以来未だに“避難指示”が出されたままで、傾いた建物が並ぶ様子は1年前と変わりません。
津野ひとみさん(58歳)の経営する美容室も、液状化現象の影響で借りていた店舗の建物が大きく傾き、移転を余儀なくされました。
「なんかちょっとやっぱり悲しいですよね」 「まだ5年くらいしか経っていなかったので…」 「どうしようと思いました。お客様もいるし、スタッフが働けないのは一番困るので、必死でした」
幸いにも、地震から1か月後には西区内に物件を見つけ再開することができました。 ただ、移転費用や新たな設備投資などにおよそ300万円かかったといいます。
新潟県によりますと、地震で建物の被害を受けた県内の中小企業は1377社に上り、被害額は42億円となっています。
「こちらが本館の跡になります」
新潟市西区で創業36年のビジネスホテル『ホテル寺尾』の2代目社長・勝島猛(66歳)に大きな被害を受けたホテルを案内してもらいました。
2024年元日の能登半島地震後も8カ月間使われていた本館は、液状化現象の影響により建物が大きく傾き、今は取り壊されて更地となっています。 以前は、本館と新館など4棟に32室を持っていましたが、今は本館が使えず客室数も26に減っています。
勝島さんは、2025年4月以降の再開を目標に本館の立て直しを目指しています。 しかし地震から1年たっても、新しい液状化現象があるそうです。
地震後もホテル内に段差が生じ、液状化現象によるとみられる被害が至る所で見られました。
「見てわかるように、雨が降るとまだ液状化が進んでいると見えて、こういうふうに川のように水がが流れてきているんです」 「液状化現象は止まっていないですね。そのためブロック塀が割れて膨らんで…」
2024年10月。 能登半島地震による液状化現象の影響で被害を受けたホテル本館の再建工事を始めようとした矢先、後ろのブロック塀が膨らみ、隣の建物が傾き始めたのです。
このため、当初の計画にはなかった地盤対策もせざるを得なくなり、完成も2月から4月以降にずれこむことに…。
【ホテル寺尾 勝島猛社長】 「まずは今、地盤対策の方が終わらないことには、再建工事にも手をつけられないということで、2か月くらいは工期が延びてしまいました」 「建て替え費用は、当初の予算の1.5倍ぐらい、1億円ぐらいかかる…」
年末に勝島さんは、融資について銀行と相談をしていました。 工事業者への支払いが遅れる事態となっていたのです。
【銀行の担当者】 「今、申請の方を上げさせていただいている。なんとか私も…」
【ホテル寺尾 勝島猛社長】 「ひと月待ってもらっているので、これ以上は向こうも…」 「何とか年内にお願いしたい。お願いします」
別館2棟と駐車場の工事ですでに3500万円がかかり、『ホテル寺尾』の再建資金は不足していました。
「もう自分の預貯金はみんな使ったんでね…。早く融資が来てもらいたいと、切実に思いますね」
仮に銀行から1億円の融資が決まったとしても、全ての返済を終えるには15年ほどかかる見込みです。
能登半島地震で被害を受けた『ホテル寺尾』では今、臨時の「フロント」を駐車場の一角に設けて対応しています。
6畳ほどのこのスペースで社長の勝島猛さんは生活をし、日中はこの部屋で90歳の母親・テル子さんも過ごしています。
夫の徹さんとともに1989年にこのホテルを始めたテル子さんは、既に亡くなった夫の写真に毎日語りかけているそうです。
「やっぱり私も年ですから…。でも、ここが新たにうまく始まるまでを見ないうちはお父さんのとこに行けないな、と思っているんですよ」
【ホテル寺尾勝島猛社長】 「苦しい、苦しい1年が、やっと終わりました」 「去年の正月、まさかこんななると思わなかったので…」
まだまだ先行きが見通せないなか、経営者たちの2025年が始まりました。