アメリカ・ニューメキシコ州の「スペースポート・アメリカ」にて宇宙葬が実施される直前のロケット(写真:銀河ステージ)
1997年4月。24人分の遺灰を格納した空中発射型ロケットが、スペイン領カナリア諸島の上空11kmから打ち上げられた。
この世界初の「宇宙葬」に参加した24人の中には、宇宙を舞台にしたアメリカのSFドラマ『スタートレック』シリーズの生みの親、ジーン・ロッデンベリーも含まれていた。
「宇宙葬」を始めたのは、テキサス州ヒューストンに拠点を置く民間の宇宙輸送サービス会社、セレスティス社。「宇宙葬」とは、故人の遺灰を1人につき数グラムずつ特殊なカプセルに納め、宇宙空間に打ち上げる葬法で、海や空に遺灰を撒く「散骨」の一形態だ。
まさに宮沢賢治の『よだかの星』を地でいく斬新な葬送方法「宇宙葬」だが、どんな人が選択するのだろうか。費用はどれくらいかかるのだろうか。
日本国内で「宇宙葬」を取り扱っている企業は現在5社ほどあり、その中で2013年からセレスティス社の正規代理店として最多成功実績を誇る株式会社銀河ステージに、「宇宙葬」を葬送方法として選択した人の背景や費用など、詳細を聞いた。
福岡県のAさん(60代)の妻は、Aさんとの結婚を機に勤めていた航空会社を退職。闘病生活の末に59歳で亡くなった。
キャビンアテンダントをしていた妻は、空を飛ぶことが大好きで、闘病中、よく「いつか夫婦で宇宙旅行に行きたい」と言っていたため、Aさんは「宇宙葬」を検討。数年して銀河ステージにたどり着き、「人工衛星プラン」(税別95万円)を申し込んだ。
そして今年6月25日15時30分(現地時間午前2時30分)、フロリダ州にあるケネディ宇宙センターから打ち上げられたスペースX社の最新型ロケット「ファルコン・ヘヴィ(Falcon Heavy)」は、無事予定の高度に到達し、離陸から12分55秒後、遺灰を納めた人工衛星を宇宙に送り出した。日本からは9人が参加。Aさんは現地で打ち上げを見送ると、感無量の様子だった。
Aさんが選択した人工衛星プランは、遺灰を納めた人工衛星が宇宙空間に到達すると、最長で240年間にわたって軌道上を周回するプラン。宇宙空間とは、国際航空連盟やアメリカ航空宇宙局(NASA)が定義するカーマンライン(海抜高度100km)を超えた領域を指す。
これまで、宇宙飛行士ゴードン・クーパー、『スタートレック』の俳優ジェームス・ドゥーアンをはじめ、世界各国約320人の遺灰が人工衛星に搭載され、現在も軌道上を周回している。人工衛星は、役割を終えたら大気圏に突入し、摩擦によって燃え尽きてしまうため、宇宙のゴミになることはない。
また、遺灰が搭載された人工衛星の現在位置は、「Star Walk」という天体観測アプリを使えばいつでも確認可能。人工衛星のある方角に向かって、手を合わせることもできる。
大阪府のBさん(70代)の息子は、テレビやラジオの制作会社に勤めていた。仕事仲間に恵まれ、休日も仲間と国内外の旅行に出かけるなど、公私ともに充実した日々を過ごしていたが、40代後半で突然体調を崩し、病院を受診したところ、膵臓がんだとわかる。
膵臓がんは見つけることが難しいうえ、進行が早く、Bさんの息子は約1年で亡くなる。
Bさんの息子は生前、「宇宙旅行に行きたい」ことや、自分が亡くなったら「宇宙葬」を希望する旨を周囲に漏らしていた。
Bさんは息子の願いをかなえてあげたいと思い、息子の仲間たちに相談。すると、仲間たちが少しずつお金を出し合い、銀河ステージの「宇宙飛行プラン」(税別45万円)を申し込んでくれた。
2018年9月18日未明(現地時間17日)、ニューメキシコ州スペースポート・アメリカから「スペースロフトXL」が打ち上げられた。Bさんと仲間たちは、ネットで配信された打ち上げのライブ中継を、感慨深い面持ちで見ていた。
フライトに先立ち、見学ツアー・セレモニーが開催され、搭乗者の家族などが参加している(写真:銀河ステージ)
宇宙飛行プランは、ロケットの先端の部分に納骨室が設けられ、胴体の部分には研究機材が搭載されている商業用の無人ロケットを使用。ロケットは、ニューメキシコ州にある商業宇宙船発着基地「スペースポート・アメリカ」から打ち上げられる。
人工衛星は、長期間地球の周りを回る場合が多いが、ロケットは、弾道軌道という弧を描く飛行形態なので、飛行時間は数分から数時間程度。近年旅行社が扱っている「宇宙旅行」も、このタイプだ。
着陸する必要がないので、最終的には大気圏突入時に燃え尽きるか、燃え尽きなくても、砂漠や海など、人がいない場所や立ち入り禁止の場所に落ちるよう管理されている。
また、スペース・デブリ(宇宙のゴミ)については、宇宙時代における重要な問題になると考えられるため、同社ではスペース・デブリを極力増やさないため、有用な人工衛星やロケットにのみ遺灰を便乗させており、遺灰搭載ボックスのみを軌道上に放擲(ほうてき)するようなサービスはいっさい行っていない。
セレスティス社は、銀河ステージと提携する以前にも日本に代理店を持っていたが、なかなか日本に浸透せず、苦戦を強いられてきた。その理由を、銀河ステージの事務局員、生地真人さんはこう話す。
「アメリカ人と日本人では、死に対する考え方が違います。アメリカ人にとっての宇宙葬は、『かつて身内が宿っていた遺体の一部が宇宙に行く』という考え方。一方、日本人は、『魂が宇宙へ行く』『◯◯に宇宙旅行をさせてあげる』という考え方をしています。だから私たちは、日本で宇宙葬をリリースする際、日本人向けにカスタマイズが必要だと考えました」
アメリカ人は、遺骨が搭載されたロケットの打ち上げをお祭りのように楽しむが、日本人にとって「宇宙葬」は、葬送方法の1つであり、追悼の儀式だ。また、日本人が打ち上げに駆けつけるのは、距離的・時間的な理由から難しいケースが多い。そこで同社では、打ち上げの様子を動画で見られるフォトフレームと打ち上げ証明書をセットにして、実際に宇宙葬を行った後、遺族に送っている。
日本人にとって「宇宙葬」は、ロケットを打ち上げたら終わりではない。そのため、故人を偲ぶきっかけや思い出になるよう記念品を用意したところ、日本にも徐々に浸透してきた。
ただ、宇宙葬をはじめとした散骨に法律上の問題はないのかといえば、極めてグレーだ。日本では「墓地、埋葬等に関する法律」により、「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行ってはならない」と定められているが、多くの散骨業者や団体は、「葬送目的で節度をもって行えば問題ない」と法務省がお墨付きを与えたと説明している。
しかし法務省刑事局では、「把握している限りでは、そのような見解を出したことはない」と明言。散骨に関して、法的なルールがまだ整備されていないのが現状なのだ。
宇宙葬は、事例を紹介した2プランのほかに、「月旅行プラン」と、「宇宙探検プラン」がある(いずれも税別250万円)。月旅行プランは、月面探査機に便乗し、探査機と一緒に着陸、もしくは遺骨が搭載された部分だけ切り離して月面に埋葬するプラン。
第1号は、クレーターの研究をしていた天文学者、ユージン・マール・シューメーカーだ。2009年6月、月に水の有無を調べるために打ち上げられた観測衛星「エルクロス」に搭載された彼の遺骨は、無事月面に埋葬された。
宇宙探検プランは、宇宙の果てを目指していつまでも飛び続ける宇宙帆船(深宇宙探査機)に遺骨を搭載し、宇宙空間へ打ち上げるプランだ。第1号は、冥王星を発見した天文学者、クライド・トンボー。2015年7月、彼の遺骨が搭載されたNASAの無人探査機「ニューホライズンズ」は、冥王星に接近した後、次のターゲットに向かって飛行しながら、冥王星の観測データを地球に送信し続けている。
最短では、宇宙飛行・人工衛星・月旅行プランは2020年、宇宙探検プランは2021年に打ち上げを予定。生前予約も可能だ。
「宇宙葬を、宇宙旅行の予約と考えると、ちょっとロマンを感じられませんか? 大切な人が亡くなるのは悲しいことですが、自分の死にはちょっとしたロマンがあると思うんです。自分が亡くなった後、希望どおりになるかどうかはわからないですが、せめて生きている間は、ロマンを感じて生きていてほしい。夢やロマンを商品として取り扱っていることに、楽しさや誇りを感じています」(生地さん)
死ぬことに恐れを抱く人は多い。しかし、人は誰しも死ぬ。もしも、死ぬことが少しでも楽しみになるような葬送方法や供養方法があるのなら、それを選択しない手はないように思う。多死社会は始まっている。葬儀・供養業界にかかわらず、「死」に夢やロマンを感じさせてくれるサービスを期待したい。