鎌倉幕府を開いた源頼朝が造営した鶴岡八幡宮(神奈川県鎌倉市雪ノ下)に、2人の女性神職が誕生した。800年以上の歴史で初めてとされ、今回の年末年始は巫女(みこ)としてではなく、宮司をトップとする先輩神職とともに祭祀(さいし)の仕事に臨んだ。(菊池裕之)
年の瀬を迎えた昨年12月27日の鶴岡八幡宮。半年前に神職になったばかりの桜木宏昌(ひろよ)さん(34)と小山その子さん(41)は、元日から連日のように続く祭祀の準備に追われていた。
2人は国学院大学神道文化学部を卒業後、同神社で巫女や事務職を経験し、昨年6月に神職に登用された。今は「出仕(しゅっし)」と呼ばれる職階で、補助的な仕事が中心。だが、規模の大きな同神社は祭祀の数も多く、それぞれ異なる神具やお供え物があり、その配置などを覚えなければならない。桜木さんは「お祭りは見た目は華やかで雅(みやび)だが、緻密(ちみつ)な作業がたくさんある。でも無事に終われば達成感とやりがいを感じる」と語る。
反面、用具が男性用しかない場面では戸惑いもあるという。木靴は男性サイズだけで、急な階段では革靴に履き替える。烏帽子(えぼし)は内側に半紙を折り入れてサイズを調整している。桜木さんは「ささいなことだが、もっと色々なことに気付いていければ、次の世代につながると思う」と後進も見据えている。
宗教法人「神社本庁」によると、神職は明治以降、男性に限定されていたとされる。だが、第2次世界大戦で徴兵されるなどし、妻が神社を守ったことが女性神職誕生の端緒になったと言われているという。現在は、同庁に加盟する全国約7万8000社の神職のうち女性は計3770人で、全体の約2割に上る。
同神社で江戸以前に女性神職が生まれなかった理由は定かではないが、現代では、身を清める「潔斎(けっさい)」や昼夜こもって祈願する「参籠(さんろう)」などの女性専用設備がないのが障害になっていたという。
同神社は神社本庁への不満などから離脱を決め、2024年6月に手続きを完了。新体制となるのを機に、吉田茂穂宮司が女性神職の登用を決め、「八幡宮の大切な人材として奉仕してほしい」と勤務経験の長い2人に声をかけた。
桜木さんは、先祖のルーツがある東北地方の出羽三山神社(山形県)を家族でよく訪れ、神職の仕事に魅力を感じたといい、「神職の資格を取ったからには、神社界に貢献したい」と快諾した。小山さんも「神様により近い所で奉仕できるのでありがたい」と申し出を喜んだという。
2人が神職に転じて半年。桜木さんは「近寄りがたい神職ではなく、柔らかさのある神職になりたい」との思いを深めている。小山さんも「参拝者の切実な願いや思いを大切にしたい」と日々修行に励んでいる。
同神社は今年から女性神職の定期採用を計画している。