3月に米ニューヨークで開かれる核兵器禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加を政府が見送る方向で調整に入ったことについて、参加を要請していた被爆者団体などからは落胆の声が上がった。
日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)代表委員で広島県被団協理事長の箕牧(みまき)智之(としゆき)さん(82)は「唯一の戦争被爆国にもかかわらず参加を見送る政府に腹が立ってしょうがない」と怒りをあらわにした。箕牧さんは8日、首相官邸で石破茂首相と面会。「何度も締約国会議への参加を呼びかけたが、明確な回答はなかった」と振り返った。「核の傘」に依存しながらもオブザーバー参加するドイツやノルウェーを挙げ「なぜ日本は参加しないのか不思議でしょうがない」と述べ「諦めず、引き続き政府に参加を呼びかけたい」と話した。
昨年12月には日本被団協がノーベル平和賞を受賞し、核兵器廃絶への関心は高まっている。広島市内で25日に開かれた集会に参加していた「長崎県被爆者手帳友の会」会長の朝長万左男さん(81)は取材に対し、「平和賞を受賞しても日本政府は変わっていないままだ。岸田政権から石破政権に代わっても残念な気持ちが続いている」と肩を落とした。同じく会に参加していた元広島市長の平岡敬さん(97)は「被爆80年やノーベル平和賞など、政府にとってオブザーバー参加するには一番のチャンスだったが、それを逃した。核兵器廃絶という国民の願いを無視している」と批判した。
被爆地・長崎でも憤りの声が聞かれた。長崎県平和運動センター被爆者連絡協議会議長で被爆者の川野浩一さん(85)は「情けない、の一言ですよ」と落胆した。川野さんは、日本被団協の代表委員らが石破首相にオブザーバー参加を要請したことに触れ、「その時も明確な姿勢を示さなかったが、我々もここまで頑張ってきたから日本政府がそれなりの誠意を見せてくれるんじゃないか、という淡い期待もあった。それにさえも応えないのは、本当に情けない」と憤った。
長崎で被爆した日本被団協九州ブロック代表理事の中村国利さん(81)=福岡市=は「政府は(核保有国と非保有国の)『橋渡し役』だと言うわりに、何もしていない。被爆者は落胆するだろう」と肩を落とした。ノルウェー・オスロであったノーベル平和賞の授賞式に出席した中村さんは「平和賞受賞で会議参加の機運が高まったのに、政府は変わる気がないのか」と批判した。【安徳祐、尾形有菜、竹林静】