大阪大空襲から80年を経て、空襲を直接経験した人が少なくなる中、当時の記憶を次世代に伝えようと、空襲の証言映像や写真をデジタル化した資料を公開する取り組みが進んでいる。戦災資料を展示する「ピースおおさか」(大阪市中央区)では学習用にデジタル資料を提供。「来館しなくても資料に触れられる。多くの学校に活用してほしい」と期待する。
「B29の爆音がブワーっと塊になって響いてきた。大阪中が炎に包まれて燃え盛っていた」
「人工の池におびただしい人が折り重なって水面で浮かんで亡くなっていた」
同館が所蔵する映像コンテンツには、先の大戦末期に大阪府内で米軍の空襲を経験した人たちの生々しい証言が収録されている。一部は動画投稿サイト「ユーチューブ」にもアップされ、誰でも視聴することができる。
文化庁のプロジェクトの一環として、同館を中心に府内の平和資料館が連携し、小中学校の教育用に写真や映像のコンテンツ160点以上を制作した。昭和19年12月~20年8月に府内で大小50回を超えた空襲のほか、当時の食事や服装、学校生活などテーマ別に36項目に分類。各学校が同館に申請すれば、ウェブ上から閲覧・視聴することができる。
20年3月13~14日の第1次大阪大空襲後に繁華街・心斎橋付近を収めた写真では、焼け野原となった街並みの遠くに残った大阪高島屋の建物が見える。「戦争中の人々のくらし」の項目では、和室に正座して授業を受ける子供たちの姿を写した写真などもある。
同館によると、昨年4月に提供を始めて以来、小中学校を中心に府内外から100校以上の申し込みがあった。授業で使用した学校の教員からは「教科書に載っていない写真が多く、子供たち一人一人の関心を引き出せるような調べ学習ができる」といった感想が寄せられているという。
終戦から80年。当時の実体験を話す「語り部」の高齢化が進み、記憶の継承の「主役」はデジタル資料に移りつつある。同館の担当者は「今後は、コンテンツを利用してウェブ上で新聞を作成したり、写真資料を年表形式で見られる機能も追加したい」と話している。(秋山紀浩)