北海道苫小牧市で2019年3月、道路を横断中の女性(当時75歳)をはねて死亡させたとして、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死)に問われた男性被告(63)の控訴審で、札幌高裁(青沼潔裁判長)は18日、禁錮10月、執行猶予2年とした1審・札幌地裁判決を破棄し、逆転無罪の判決を言い渡した。衝突時の速度などを巡る検察側の主張が二転三転した結果、事故発生から2審判決までに6年を要することになった。
事故は19年3月30日午後7時31分、同市東開町の住宅街で発生。被告は当初から「現場は見通しが悪く、衝突するまで女性に気づけなかった」と主張していたが、札幌地検は21年11月、「前方を注視せずに時速約45キロで衝突した」とする内容で在宅起訴した。
1度目の主張の変更は、第4回公判が終わった後の23年1月。地検は事故解析を依頼した専門家の見解を踏まえ、衝突速度を「時速60~65キロ」に改めた。ところが、24年3月の1審判決は、解析結果に疑義を呈して速度を「時速約45キロ」と認定。ただ、解析の手法自体は採用し、「衝突地点の35メートル手前で女性を発見できたはずだから、事故は回避可能だった」と判断した。
検察側の主張変更は控訴審でも続いた。別の専門家にも意見を求めた札幌高検は「1人目の解析結果は誤り」と自ら認め、「衝突速度は時速40~45キロ」「被告が女性を発見できたのは衝突の23メートル手前だった」と説明。高裁はこの主張と新たに示された計算式を前提に過失の有無を再検討し、「事故を回避するのは困難だった」と結論づけた。
「被告の車が時速45キロ(秒速12・5メートル)で走っていた場合、停止するのに必要な距離は20・77メートル。被告は自車が2・23メートル進む間に急ブレーキをかけなければならないことになるが、その時間は約0・17秒しかない」。これが高裁の導き出した計算結果だった。
被告の弁護人は判決後、「途中で起訴を取り下げるという選択肢もあったのではないか」と検察側の対応を批判。札幌高検の上本哲司次席検事は「判決内容を精査し、適切に対応したい」とコメントした。