〈 二階派のベテランは「おめでとー!パーティーやろうぜ」と…「裏金1000万超」疑惑とやりたい放題だった「安倍一強」 〉から続く
文春オンラインに好評連載のプチ鹿島さんの政治コラムが一冊の本になりました。タイトルは 『お笑い公文書2025 裏ガネ地獄変 プチ鹿島政治コラム集2』 。
時事芸人として各メディアで大活躍中の鹿島さんですが、本書のメインタイトルは「裏ガネ地獄変」。「自民党と裏金」が大きなテーマとなっています。さらに多くの選挙の現場取材もされている鹿島さんは、現在のSNSが主流の選挙報道にも物申しています。熱い思いで書かれた本書の中から、3本を抜粋してお届けします。(全3回の2回目/ 続きを読む )
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味わい深い「すがっち500」
政治とカネの問題が沸騰するなか、中国新聞がスクープを放った。
〈『甘利氏 全国に「裏金」か 19年参院選 宮城でも100万円 政策活動費 原資の可能性』(2月14日)〉
「裏金」&「政策活動費」という注目のキーワードが出ている。この記事がどれほど重要なのか? ここで昨年9月の中国新聞のスクープを振り返ろう。
〈『買収原資か メモ押収 総理2800 すがっち500 幹事長3300… 河井元法相宅で検察』(2023年9月8日)〉
2019年の参院選広島選挙区を巡る買収事件で、検察が河井克行元法相の自宅から押収したメモがあった。それが、
「総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」
このメモは当時の安倍晋三首相が2800万円、二階俊博自民党幹事長が3300万円、菅義偉官房長官が500万円、甘利明党選挙対策委員長が100万円を現金で提供したとうかがわせる内容だった。ちなみに「すがっち500」がやたら味わい深い。河井氏の“ボス”が菅義偉氏だったのだが、裏では「すがっち」と呼ばれていたなんて。すがっち、実はナメられていたのか?
そしてこのメンバーの中で中国新聞の取材に答えたのが甘利氏だった。河井氏へ100万円を渡したと認め、「他の候補にも一律に持って行っている。(原資は)党からのお金」(2月14日)と説明していたのだ。今回の中国新聞の記事は『全国に「裏金」』を証明したことになる。
ここで重要なのは「裏金」と中国新聞が書いていること。
〈《甘利氏が関係する主な政治団体や自民党の政治資金収支報告書(19年)を見ると、いずれの100万円も記載されていない。使途公開の義務がなく、事実上の裏金と指摘される自民党の「政策活動費」を使い、陣中見舞いとして「裏金」を全国で配り回っていた可能性がある。》(2月14日)〉
「政策活動費」&「裏金」というキーワード。いったん整理しておくと、政治資金パーティー「裏金」問題は自民党によるのらりくらり戦法で相変わらず全容が明らかになっていない。しかしそれとは別に「政策活動費」にも焦点が当たりつつある。
政党から議員個人に支払われる「政策活動費」は使い道を公開する必要はない。自民党の二階元幹事長は、幹事長時代の5年間でおよそ50億円を受け取ったとされている。政策活動費の多くは選挙に投入されていたのではないか? その具体例として注目されているのが広島の大規模買収事件なのである。
「溝手いじめ」と言われていた
そもそも「河井夫妻大規模買収事件」とは何か。2019年7月の参院選広島選挙区にはどのような戦いがあったのか? これを振り返ると本当に興味深いのだ。
同じ選挙区には自民党のベテラン溝手顕正氏(岸田派)がいた。しかし河井克行氏のパートナーである河井案里氏が新人として出馬した。自民党側からすれば「2人当選させて議席を独占」という建前なのだろうが、当初から「溝手いじめ」と広島では言われていた。理由は以下である。
〈『安倍が許さない仇敵 岸田が悩む“仁義なき戦い”』(週刊文春2019年6月27日号)〉
安倍首相はかつて1回目の政権のときに溝手氏に痛烈に批判されたことがあった。大敗した2007年の参院選で安倍内閣の一員だった溝手氏は安倍氏の責任に言及したのだ。この恨みを安倍氏は忘れず、2019年の参院選で溝手氏への刺客として河井案里氏を送り込んだと報道された。そして河井克行氏は買収事件を起こしたのである。
そういう状況の中、自民党本部から河井案里氏側に1億5000万円が振り込まれていたこともわかった。これは溝手顕正氏の約10倍。官邸の力の入れ具合が「金額」で証明された。
中国新聞社の取材班による『ばらまき 河井夫妻大規模買収事件 全記録』(集英社、2021年)を読むと、今こそ重要な記述もたくさんある。
1億5000万円のうち1億2000万円は税金から出ている政党交付金だった。政党交付金は使途を収支報告書に記載し、公開しなければならない。
〈《そんなカネを「ばらまき」に充てるだろうか。むしろ足が付かないカネを使うのではないか……。》〉
中国新聞は取材を積み重ねる中で行き着いた結論があった。それは、
〈《「1億5000万円はばらまきの原資になっていない。1億5000万とは別のカネが克行の下に流れてきて、ばらまきに使われた」》〉
というものだった。では気になる買収資金はどこから出たのか。河井克行氏がばらまいた現金には「新札だった」との証言が相次いでいたことから「官房機密費が使われたのではないか」との見立てをする元衆院議員もいた。使途は公表されないカネだからだ。
自民党の根深い金権体質
さらに「政策活動費」も注目された。
〈《政党にも使途報告が不十分なカネがある。最たる例が政策活動費。政治家個人に提供した場合、その政治家に使途報告の義務はない。自民党の19年の政治資金収支報告書によると、党幹部18人に計13億円の政策活動費を支出。うち約10億円は幹事長の二階に渡っていたが、何に使ったかは明らかにされていない。》〉
つまり1億5000万とは別に、政権中枢から「表に出ないカネ」が河井夫妻に提供され、買収の資金に充てられた疑いがある。中国新聞は2021年にすでにそう書いていた。こういう経緯からの昨年9月、そして今回のスクープなのである。
〈《事件の要因としてあるのは、自民党の根深い金権体質だ。》〉
〈《そもそも河井夫妻は巨悪なのか。もっと背後に本当の巨悪が存在してはいないのか。それに検察は目をつむっていないのか。》〉
『ばらまき』にはそんな言葉もある。
地元紙の役割
河井氏の買収事件そのものに関しては、金権体質が根絶されない要因には「法制度」もあると指摘している。選挙区が重なる政治家同士が資金をやりとりすることを認めるなどの法制度だ。
「政治家は制度に穴があるから悪用する。その穴が不祥事で浮き彫りになった。だったら、その不祥事を制度改革につなげないと意味がない」という識者の声も載せている。
政治とカネの問題には「地方議員は集票マシン」という存在が大きいという。国会議員の選挙では地方議員が頼りにされるから危ないカネを渡してでも歓心を買おうとすると。なら、中国新聞のスクープのように、政治とカネの問題でも各地元紙の役割は今後ますます大きくなるのではないだろうか。
〈 《兵庫知事疑惑》「亡くなった告発者の名誉を傷つけるような発信に…」真偽不明の情報が拡散した斎藤元彦“SNS流言合戦” 〉へ続く
(プチ鹿島/ノンフィクション出版)