今後30年以内の発生確率が「80%程度」とされている南海トラフ巨大地震の被害想定が13年ぶりに見直され、3月31日に公開されました。最悪の死者想定は全国で29万8000人―。厳しい想定をどう読み解くべきか、近畿・徳島への影響を中心に解説します。
死者想定は前回より3万4000人減 しかし東日本大震災の18倍
今回の報告書によりますと、南海トラフ地震の死者は、最悪の場合、全国で約29万8000人と想定されました。この数字は、前回から3万4000人減っていますが、東日本大震災の死者・行方不明者の18倍もの大きさです。(警察庁:東日本大震災の地震や津波の被害による死者1万5900人、行方不明者2520人)
死者の多くを占める原因が、津波です。29万8000人のうち、21万5000人が津波による死者とされ、全体の7割を占めています。実は、この想定は「津波の早期避難意識」が低い場合(20%)場合です。早期避難意識が高く(70%)なれば、死者は9万4000人と、4割ほどに減らすことができるという想定もされています。つまり、「津波から早く逃げること」が何よりも大事だということです。
津波到達時間が最大5分早まった地域も…1秒でも早い避難を
今回の想定では、近畿・徳島の合わせて40市町で、高さ1mの津波の最短到達時間が早くなりました。
津波はスピードと力があるため、20cmでも足元を取られると人が流されて命を落とすおそれがあります。1mの津波に襲われないよう、迅速な避難が必要です。
和歌山県では、和歌山市など14市町で津波到達が1分以上早くなる想定です。白浜町とすさみ町は1分早くなり、地震発生後3分に。那智勝浦町・太地町・串本町の想定は早くなってはいませんが、そもそも那智勝浦町は3分後、太地町と串本町は2分後と、非常に厳しい想定は変わりません。
地震からおよそ1時間後の津波到達が想定されている大阪府内でも11市町で早くなっていて、泉佐野市では4分、田尻町では5分も早くなりました。最南端の岬町で58分、大阪市内にも1時間49分後に、1mの高さの津波が来ると想定されています。
徳島県では、沿岸すべての8市町で津波到達時間が早くなりました。南部の牟岐町で3分早くなり地震から6分後、海陽町で1分早くなり5分後と、さらに厳しい想定になったため、県は津波避難の周知・啓発を進めていきたいと警戒を強めています。
和歌山・徳島ともに最大津波想定20m超
さらに、和歌山県や徳島県での最大津波は、極めて高い想定です。和歌山県すさみ町で20m、那智勝浦町や串本町などで18m。徳島県美波町は24mなどとなっています。和歌山市や徳島市でも決して油断できません。
また、30cm浸水する面積は、前回想定と比べて全国で約3割増えました。シミュレーションの精度が上がったためで、徳島県では津波の死者が2万5000人から3万5000人と1万人増えました。大阪府でも2400人から2600人と200人増えています。
南海トラフ巨大地震の死者の多くを占める津波被害。早期避難に勝るものはありません。お住まいの家、旅行・出張先などでも「もし今大地震が起きたら―」と、これらの想定を頭の片隅に置いていてください。しかし、避難できない状況になってしまったら― そのための対策を次回お伝えします。
◆取材・文 福本晋悟
MBS報道情報局 災害・気象担当デスク。東日本大震災や西日本豪雨、能登半島地震などの被災地を取材。「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」特別研究調査員。