米国のトランプ大統領が発表した「相互関税」の余波が止まらない。4月9日には突如、相互関税の一部について、報復措置を取らなかった国に対して90日間一時停止すると発表。しかし、全世界を対象にした10%の一律関税については継続されるため、石破政権は引き続き交渉にあたることになる。一方、国内に目を向けると、トランプ関税の影響を見据えた経済対策も急務だ。一連の対応は、石破政権の行方やポスト石破の動きにも影響を与えそうだ。
【画像】トランプ大統領から「手ごわい交渉相手」と言われた“ポスト石破”を狙う政治家
国民一律10万円給付も? 「バラマキ」に冷ややかな声
トランプ大統領が発表した相互関税をめぐっては、日本のGDP押し下げなどの影響も予想されている。そこで、石破政権は現金給付などの経済対策を検討。
所得制限を設けず1人一律5万円を給付するなどの案が浮上しているが、与党内からは「10万円」などさらに多額の支給を求める声も出ている。
ただ、党内からは冷ややかな声も。
「経済対策は必要とはいえ、現金給付は参院選前の『バラマキ』だと国民に見透かされるのでは。今から補正予算を編成して通常国会で成立させるのも時間的にタイトだし、少数与党として野党との調整も求められるため、大変だ」(自民党関係者)
それでも、夏の参院選前にトランプ政権との交渉で少しでも成果を出し、経済対策も打ち出さないと、ただでさえ低支持率にあえぐ石破政権への逆風は強まっていく。「なりふり構わず」で対応にあたっていく考えだ。
交渉役は「石破首相の数少ないお友達」に、党内からも不安の声
石破首相は、トランプ政権との交渉にあたる担当閣僚に、側近の赤沢亮正経済再生相を起用。
これまでにも環太平洋連携協定(TPP)交渉は甘利明氏、日米貿易協定交渉は茂木敏充氏と、当時の経済再生相が担ってきたため、赤沢氏の起用は順当ともいえるが、人選には党内から疑問の声も出ている。
「赤沢氏は、石破首相と同じ鳥取の選出だから、初めて閣僚になれた人。最側近とされるが、石破首相が不遇の時代は業を煮やして距離を置こうともしていた。その程度の人しか仲間がいない石破首相が、数少ない“お友達”の中から選んだ人がトランプ政権との窓口で大丈夫だろうか」(自民党関係者)
そんな中、永田町で注目を集めたのが、現在要職に就いていない茂木敏充前幹事長だ。かつて日米貿易交渉を担い、トランプ氏から「タフネゴシエーター(手ごわい交渉相手)」と呼ばれたこともある。
トランプ大統領が関税措置を発表した後の4月5日に茂木氏は、さっそく「日米交渉・TPP 関税協議を有利に進めた最強の交渉術」と題したYouTube動画をアップした。
永田町ではこんな憶測も。
「茂木氏は人望がなく、総理になれるとしたら、ピンチヒッターのときだけだろう。トランプ大統領の任期はあと4年弱。石破政権が長くもたないことを見越して、トランプ氏と渡り合える能力をアピールし『ポスト石破』を狙っているのだろう」(全国紙政治部記者)
「政治とカネ」追及はトーンダウン…石破首相・立憲にとってウィンウィン?
一方、野党第一党の立憲民主党は、商品券問題をはじめとする「政治とカネ」の問題の追及をトーンダウン。
「一番心配なのは中小企業の資金繰りだ」(野田佳彦代表)として、4月中に開かれる予算委員会の集中審議や党首討論では、商品券問題や裏金問題の追及よりも、トランプ関税への対応策を議論する考えだ。
「国民の暮らしがどうなるか心配なときに、いつまでも商品券問題ばかりやっていては、また『立憲は批判ばかり』と言われてしまう。今や立憲よりも支持率が高い国民民主党は経済対策を打ち出してくるだろうし、立憲としても『政治とカネ』の追及はいったん止めざるをえない」(立憲議員)
「国難」ともなると、石破政権への追及は後回しになるというのだ。
立憲議員は「トランプ関税への対応は難しいとはいえ、石破首相からしたら、自らが引き起こした商品券問題はかすむことになる。立憲にとっても、事の次第によっては内閣不信任案の提出を見送る理由ができるかもしれない」と、トランプ関税が国内の政局に与える影響を語る。
例年、野党が6月の国会会期末に内閣不信任案を提出し、与党の反対で否決される、という流れは慣例だったが、今年は野党がまとまれば内閣不信任案の可決もありうる状況だ。
ただ、内閣不信任案が可決された場合、衆院が解散され総選挙に突入する可能性もあり、現在、国民民主党の勢いに押されている立憲としては内閣不信任案の提出は衆院の議席を減らすリスクもある。
しかし、内閣不信任案を提出しないと「腰砕け」との批判を浴びる可能性もあり、内閣不信任案をめぐる対応は難しかった。
その点、トランプ関税による「国難」は内閣不信任案の提出を見送る理由になるかもしれないというのだ。実際、新型コロナウイルスの感染が拡大していた2020年には、立憲は不信任案を提出しなかった経緯がある。
石破首相は2月にトランプ大統領と会談した後、「これから先、かなり落ち着いてじっくり話ができる印象をもった」「(相性は)合うと思う」と語っていた。トランプ大統領が与える石破政権への影響を、最小限に食い止められるか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班