日米の宇宙新興企業と東京大が、地球に近づく小惑星の軌道を変えて衝突を防ぐ「プラネタリー・ディフェンス(地球防衛)」技術を実現するため、無人探査機から小惑星に金属の粒でできた「人工流れ星」を撃ち込む実験に乗り出す。実験で発生したクレーターを観測して小惑星の強度などを分析し、技術の実現に必要なデータを得る。探査機の2028年打ち上げを目指す。
新興企業は、東京の「エール」と、米カリフォルニア州を拠点とする「エックスラボ」。エールは宇宙に金属の粒を放出して人工流れ星をつくる世界初の事業を目指していて、今回の計画に関連技術を活用する。
実験の舞台は、29年4月に地球に最接近する小惑星「アポフィス」(直径340メートル)で、3万2000キロの距離まで近づいて通過すると予測されている。当初は衝突の恐れも指摘されたが、その後、正確な軌道が判明。ただ、これほど大きい小惑星が近づくのは観測史上初とされる。
計画では、エックスラボの探査機に、エールが開発した人工流れ星発生装置を搭載する。探査機からアポフィスに直径約1センチ(重さ約5グラム)の金属の粒10~20個を秒速200メートルで撃ち込み、小惑星の軌道を変えずに直径10センチほどの人工クレーターを複数作る。その後、各クレーターを観測し、強度や内部構造に違いがあるのか東京大のチームと共同分析する。
地球防衛技術は、接近する小惑星に探査機をぶつけて軌道を変える方法が有力とされ、米航空宇宙局(NASA)は22年、別の小惑星に探査機をぶつける実験で軌道変更に成功した。アポフィスの接近は関連技術を実証する絶好の機会で、エールなどは人工流れ星で軌道を変更する技術の獲得に向け、今回の実験で小惑星の特性を把握する。
NASAや欧州宇宙機関(ESA)も探査を計画中で、ESAは28年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の観測機器を載せた探査機を打ち上げる。エールなどは各国と探査時期を調整し、29年6月以降に実験を行う。
日本は小惑星探査機「はやぶさ2」の運用などで小惑星に安全に近づく技術を蓄積しており、エールの岡島礼奈社長は「日本のお家芸ともいえる技術を民間で継承し、人工流れ星を使った地球防衛技術を確立したい」と話す。