「世界の記憶」に家康ゆかり仏教聖典 国内9件目 原爆写真は見送り

パリで開催中の国連教育科学文化機関(ユネスコ)の執行委員会は17日、徳川家康が浄土宗大本山増上寺(東京都港区)に寄進した仏教史料「増上寺が所蔵する三種の仏教聖典叢書(そうしょ)」を、「世界の記憶」(世界記憶遺産)として登録することを決めた。もう一つの候補だった「広島原爆の視覚的資料―1945年の写真と映像」の審議は見送られ、登録は2027年以降に先送りとなった。
世界の記憶は国内でこれまで藤原道長の自筆日記「御堂関白記」などが登録されており、9件目となる。浄土宗と増上寺が申請した「三種の仏教聖典叢書」は12~13世紀に版木が作成された「大蔵(だいぞう)経」と呼ばれる仏教の一大文献群で、総数約1万2000点に及ぶ。
家康が集め、増上寺に寄進。その後、関東大震災や東京大空襲による焼失を免れた。中国の宋代や元代、朝鮮王朝時代の最高の印刷技術で制作されたもので、15世紀以前に作られた三つの大蔵経がほぼ完全な状態で残っているのは、世界でも例がないという。
一方、「広島原爆の視覚的資料」は、新聞・通信各社の記者や広島市民ら計27人と1団体が、45年8月6日から12月末までの間に撮影した写真1532枚と動画2本で構成される。原爆投下直後の巨大なきのこ雲や、重いやけどを負った被爆者の姿など原爆被害の深刻さを伝えており、毎日新聞社、中国新聞社、朝日新聞社、中国放送、NHK、広島市が共同申請していた。
原爆資料はユネスコが3月に発表した登録予定リストに掲載されなかった。日本政府やユネスコは理由を明らかにしていないが、15年に中国の「南京大虐殺」に関する資料が登録されたことに反発した日本政府が制度改革を求めたことから、ユネスコ執行委は21年に加盟国による異議申し立てを認め、関係国が期限を定めずに対話を続ける新制度を設けている。これに基づき、加盟国の一部が異議を申し立てたとみられる。
文部科学省によると、原爆資料の登録は最短で2年後の27年のユネスコ執行委へ先送りとなる見込み。【西本紗保美】
世界の記憶
貴重な文書、絵画、映像フィルムの保存や活用を目的とした、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の事業。1997年に登録が始まった。審査は2年に1回で、今回の認定により計570件となった。世界ではオランダの「アンネの日記」などが知られる。かつては自治体や民間団体も直接ユネスコに申請できたが、2021年に審査方法を見直し、各国政府が関与するルールに変更。申請は1回あたり1国2件までとなった。