要介護5の認定を受けた65歳未満の生活保護受給者たちが、選挙の際に投票所に行かずに済む「郵便投票」の対象から漏れている。公職選挙法施行令が対象を「介護保険の被保険者証に要介護5と記載されている者」と規定する一方、被保険者に該当しない生活保護受給者もいるためだ。専門家からは「法制度の不備。早く改正すべきだ」との意見も出ている。(川崎支局 金子祥子)
川崎市高津区に住む生活保護受給者の女性(53)は約5年前に転倒し、歩行器や車いすを使って日常生活を送ってきた。2023年10月に新型コロナウイルスに感染して足腰が弱り、寝たきり状態に。両膝の変形性関節症と診断され、同11月には市から介護認定の中で最も重い要介護5と判定された。
昨年10月の衆院選は、要介護5となってから初めての選挙だった。友人から「要介護5なら郵便投票ができる」と聞き、区役所に問い合わせたが、回答は「対象外」。女性は投票を断念した。
「これまで選挙があれば必ず投票してきた。投票できないと聞いた時は、差別されているように感じた」。女性はこう憤る。
郵便投票が可能な「介護保険の被保険者」に該当するのは、「65歳以上」か「40~64歳の医療保険加入者」に当てはまる人だ。女性は65歳に満たず、医療保険にも加入していない。要介護認定を受けているが、介護に関する費用は生活保護の介護扶助で賄われている。このため、郵便投票の対象になっていない。
女性だけではなく、生活保護受給者の多くは医療保険に入っていないとみられる。淑徳大の結城康博教授(社会保障論)は「生活保護受給者は国民健康保険の被保険者資格を失うなどするため、医療保険に入っている人はかなり少ない」と指摘する。厚生労働省によると、要介護5と認定された65歳未満の生活保護受給者は全国に約2500人。女性と同じように、郵便投票の対象になっていない人も少なくないとみられる。
被保険者証に要介護5と記載された人に郵便投票を認める規定は、04年施行の改正公選法に盛り込まれた。規定は、議員立法の形で国会に提案されたものだった。
不備は13年5月、参議院の「政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会」で取り上げられた。当時の参院議員が「介護保険法の要介護5の人は郵便投票が認められ、同じ要介護5でも生活保護法に基づく介護扶助の人は認められていない」と指摘した。
答弁した衆院議員は「生活保護法に基づく方々を排除する目的ではなく、郵便投票の範囲を広げていく過程で、被保険者証を持つ者という形になってしまった」と説明。「各党各会派で協議していくべきだ」と述べた。しかし、現在も改正はされていない。
選挙制度などに詳しい一般社団法人「選挙制度実務研究会」(東京)の小島勇人理事長は、「具体的な事例が明らかになっており、早急に議論する必要がある」と指摘している。