ススキノ遺体切断、地裁「保管黙認は隠匿場所の提供」…瑠奈被告の母に有罪判決「物理的にも心理的にも後押し」

札幌・ススキノのホテルで起きた猟奇的殺人事件を巡り、札幌地裁は7日、死体遺棄と死体損壊の各ほう助罪に問われた田村浩子被告(62)に懲役1年2月、執行猶予3年(求刑・懲役1年6月)の判決を言い渡した。弁護側は直ちに控訴し、3月に有罪判決を受けた夫の精神科医・修被告(61)(殺人や死体遺棄、死体損壊などのほう助罪で起訴)とともに札幌高裁で改めて審理されることになった。
「いずれ警察に逮捕されるから、それまでは親子3人の生活を続けたい」
一人娘の瑠奈(るな)被告(31)(殺人罪などで起訴)から被害者の男性(当時62歳)の頭部を見せられた際、こう考えて札幌市厚別区の自宅浴室に保管することを黙認した浩子被告。ただ、瑠奈被告に依頼された「損壊する様子の動画撮影」は修被告に委ねており、今回の公判で弁護側は「浩子被告の関与で頭部の隠匿(遺棄)や損壊が容易になった(ほう助された)とは評価できない」と主張していた。
しかし、この日の判決は「頭部の保管を黙認したことは『隠匿場所の提供』に当たり、物理的にも心理的にも瑠奈被告を後押しした」と認定。その上で「瑠奈被告は動画を撮影してもらうことで『自分で撮るより良い映像が残せる』と考えていたことが推認できる」などと指摘し、浩子被告が撮影を止めなかったことも「心理的なほう助」だと結論づけた。
修被告と同様に無罪主張が退けられた浩子被告だったが、約40分間に及んだ判決文の朗読中は表情を変えることなく法壇を直視。渡辺史朗裁判長から「瑠奈被告のため、母として正しく接してあげてください」と声をかけられると、ハンカチを握りしめながら何度もうなずいていた。
一方、浩子被告の弁護団は「事実認定と法令解釈の双方に重大な誤りがある」と判決を批判し、控訴審でも全面無罪を求めていく考えを示した。
瑠奈被告、精神鑑定長期化

修被告と浩子被告の公判では、瑠奈被告が自ら撮影した殺害と頭部切断の場面の映像なども証拠採用され、今回の事件で「何が起きたのか」はほぼ解明されたと言える。一方、「なぜ事件を起こしたのか」という動機の部分は両親も測りかねており、それを語ることができる瑠奈被告は精神鑑定の長期化で公判開始の見通しが立たない。
瑠奈被告には10年以上前から統合失調症や多重人格のような症状が出ていたが、札幌地検は昨年3月、半年間に及ぶ精神鑑定の結果を基に「刑事責任を問える」と判断し、両親とともに札幌地裁へ起訴。ただ、担当医が鑑定期間中にインターネット番組で「瑠奈被告は殺人罪で起訴される」との趣旨の発言をしていたことに弁護側が「予断を持った不適切な鑑定が行われた」と反発するなどし、地裁が9月に再鑑定の実施を決める事態となった。
再鑑定については当初、事件関係者の間でも「年度内(今年3月末)には結果が出るだろう」との見方が広がっていた。しかし、手続きは長期化の様相を呈しており、関係者の一人は「どれくらいの時間が必要になるのか、全く読めない」と打ち明ける。
刑事裁判で被告を罪に問うためには、責任能力(善悪を判断して行動を自制する能力)だけでなく、被告自身が「今はどのような手続きが行われているのか」などを理解できる「訴訟能力」が必要だ。再鑑定の結果次第では、「瑠奈被告の責任能力」に加えて「訴訟能力の有無」も争点化する可能性がある。