2020年に菅義偉首相(当時)が日本学術会議の推薦会員候補6人を任命拒否したことを巡り、立憲民主党の小西洋之参院議員が国を相手取り、首相が任命拒否できるという法解釈の整理に至った行政文書の開示を求めた訴訟の判決で、東京地裁は16日、文書の一部を黒塗り(不開示)とした国の対応を違法として取り消し、全面開示するよう命じた。
篠田賢治裁判長は「解釈が整理される経緯や理由は国民に十分に明らかにされ、吟味される必要がある。公にすることにより得られる利益(公益性)は極めて大きい」と理由を述べた。
学術会議の会員の任命を巡っては、中曽根康弘首相(当時)が1983年に国会で「政府が行うのは形式的任命にすぎない」と答弁し、歴代首相は学術会議が推薦した候補者をそのまま任命する運用を続けてきた。しかし、菅氏は20年10月、学術会議から推薦のあった会員の候補者105人のうち99人を任命したものの、6人の任命は拒否した。
その後、内閣府が18年に「首相が推薦通りに任命する義務があるとは言えない」と法解釈を整理する文書を作成していたことが明らかになった。小西議員はこの結論に至る内閣府と内閣法制局のやり取りが分かる文書の開示を求めたが、国が21年1月に一部を黒塗りにして不開示としたため、提訴した。
判決は、推薦された候補者を歴代首相がそのまま任命するという30年以上続いた運用は、18年の法解釈整理により「大きく変えられたと国民一般に受け取られ得る」と指摘。情報公開法は、政府が説明責任を果たすこと、それにより国民の的確な理解と批判の下で公正、民主的な行政が推進されることを目的としているとし、結論だけでなくそこに至る過程も「重要な資料になる」と判断した。
国はやり取りの過程には「未成熟な記載があり、開示すると誤解や混乱を招く恐れがある」と主張したが、判決は「組織的な検討を踏まえて形成された見解が(文書に)記載されていると推認される」として退けた。
内閣府日本学術会議事務局は「今後、判決内容を精査した上で、適切に対応していきたいと考えている」とコメントした。【安元久美子】
文書開示命令の骨子
・首相による推薦候補者任命の運用変更に関する文書の一部を黒塗り(不開示)とした国の対応は違法
・首相が任命を拒否できるとする法解釈が整理される経緯や理由は、国民に十分に明らかにされ、吟味される必要がある
・開示することで「混乱を招く」とする国の主張に理由はない。公にすることで得られる利益は極めて大きい