「自分がバカだった。だまされるとは思わなかった」。SNS型ロマンス詐欺で約1000万円をだまし取られた三重県鈴鹿市の50代男性がこのほど、自分のような被害者を増やさないようにと報道各社のインタビューに応じた。生々しいやりとりからは、男性の心のすきを突いて誘導し、金を奪う犯人側の巧妙な手口が見えてきた。
「はじめましてよろしくお願いします」
台湾の女性だという「悠雅」と名乗る人物からX(ツイッター)に絵文字付きのダイレクトメッセージが届いたのは、昨年4月ごろだった。男性は元々、知人から案内を頼まれていた台湾からの旅行客だと思い、「悠雅」とやりとりを始めた。
「日本で会おう」
「悠雅」は偶然台湾出身だっただけで、知人から案内を頼まれていた旅行客ではなかった。だが、「台湾のことなどを話していくうちに、友達として仲良くなりたいと思うようになった。僕のことを大切にしてくれて、他の人とは違うのかなと思った。正直うれしかった」とひかれていった。
「暗号資産を取り扱えるところがある」
投資を持ちかけられたのは、知り合ってから約1週間後だった。株式投資などの経験があった男性はすぐに詐欺を疑ったが、自分で調べたところ、おかしいと思う点はなく、指示通りに指定されたサイトに6回にわたって計約200万円を投資として送金した。
後日サイトを確認すると、暗号資産の価値が4000万円と表示された。当初の約20倍で、目標にしていた額を上回ったこともあり、現金として引き出そうとした。
「現金化するには税金を支払う必要がある」
サイトの運営会社からは思わぬ指摘を受けた。ただ、信用してしまっていた男性は「おかしいと思ったけど、支払える範囲だった」と提示されるままに、7回にわたって計約800万円を追加で送金した。
だが、結局引き出すことはできず、「悠雅」とも連絡が取れなくなった。自分が詐欺の被害に遭っていたことにようやく気づいた男性は、昨年10月に県警に相談したが、振り込んでしまった総額約1000万円は戻ってはこなかった。
男性は「詐欺の手口は知っていたが、(やりとりしている時は)だまされているとわからなかった。詰めが甘かった」と振り返った。周囲に相談しなかったわけではなかったが、「利益が上がっていた時は、調子に乗って相談していなかった。『やめておけ』などアドバイスをもらったが、お金を送金して処理する方を選んだ」と後悔を募らせた。
被害の拡大を防ぐため、自らの苦い経験を明らかにした男性は「関係性のない人からの紹介や情報をうのみにすると間違いのもと。うまい話はない」と実感を込めて話した。【渋谷雅也】
被害者の6割「手口知っていた」
三重県内ではSNS型投資・ロマンス詐欺による被害がなかなか収まらない。県警によると、2024年の被害は302件、約27億820万円で、23年の119件、約11億5970万円からいずれも2倍以上で過去最高だった。
県警は実態を把握するため、24年10月~25年3月末に被害者を対象にアンケート調査を実施した。20~80代の42人のうち、「詐欺の手口を知っていた」が約6割の27人で、さらに24人は報道で手口を知ったという。
だまされた理由は複数回答で、「巧妙だった」が約7割の最多32人で、「まさか自分が被害に遭うと思わなかった」が23人、「元々投資に興味があった」が17人と続いた。「誰かに相談したか」という質問には「いいえ」が38人で、大半が相談せずにだまされたことが分かった。
県警生活安全企画課は「よく知らない人、関係性の薄い人からの投資話やお金を支払う要求は詐欺ではないかと疑ってほしい。疑わしい段階でいいので、警察などに相談してください」と呼び掛けている。【渋谷雅也】