人気アイドルのライブに、知人になりすまして入場しようとしたとして、詐欺未遂罪などに問われたファンの女(28)が今月、大阪地裁で有罪判決を受けた。ライブを見たいあまり、複数の知人の名前を使ってチケットの抽選に応募し、本人確認に必要な運転免許証の偽造までしていた。「推し活」が過熱する中、ファンの行き過ぎた行動の代償は大きかった。
昨年12月25日夕、東京都在住だった被告の女は大阪市内の劇場前にいた。手には、7人組アイドルグループ「WEST.」のデビュー10周年記念ライブのチケット。だが、名義は女のものではなかった。
検察側の冒頭陳述によると、女は自身に加え、知人らの名前も使い、複数のアカウントでファンクラブに入会していた。記念ライブの抽選に応募し、知人名義のアカウントで当選した。
他人の名前で応募する行為はチケットの不正転売につながるため、会員規約で禁じるファンクラブが多い。
女が入会したファンクラブも同様で、今回のライブでは入場時、主催者が顔写真付きの身分証明書の提示を求めていた。
判決などによると、女は画像編集ソフトやカードプリンターを使い、自分の顔写真と、知人の名前が記された運転免許証を偽造。入場口で示したが、スタッフに見抜かれ、警察に通報された。過去にも同様のなりすましを繰り返していたという。
女は逮捕・起訴され、4月の初公判で起訴事実を認めた。
6月13日、辛島明裁判長は、知人になりすましてライブを見る権利を得ようとしたとする詐欺未遂罪と、免許証の偽造に関する有印公文書偽造・同行使罪で女に懲役2年、執行猶予4年(求刑・懲役2年)を言い渡した。「不正防止のために厳格な本人確認がなされる中、ライブを観覧する地位を得るため、他人になりすました点は軽視できない」と指摘した。
判決言い渡し後、辛島裁判長は「大変な思いをしたことを忘れないで」と諭し、女は小さな声で「わかりました」と返した。
友人や親族の名前でチケットの抽選に応募する不正は横行しているとみられる。
民間企業2社でつくる「推し活総研」が1月に実施した調査では、推し活をしている人は約1380万人と推計され、昨年から250万人増加。市場規模は年3兆5000億円と試算される。
人気アイドルや歌手のライブチケットは競争率が高く、2019年には営利目的での高値転売を禁じる「チケット不正転売禁止法」が施行された。
ファンクラブに入れば、優先的にチケットを購入できるが、それでも入手は困難だ。このため、年会費を自分で負担して知人にも入会してもらい、当選率を高めようとする人がいる。
複数のファンが読売新聞の取材に、こうした不正を行ったことがあると語った。
その一人で、ある男性アイドルのファンクラブ加入歴10年という埼玉県の会社員女性(26)は、5年前から親戚や友人に「名義貸し」を依頼。現在、約20人分加入している。
負担は年5万円に上るが、必ず1枚はチケットが手に入るようになった。運転免許証の提示まで求められることはあまりないという。ファン仲間には、50人分以上加入している人もいるといい、「良くないことだとわかっているが、多かれ少なかれ、周囲もやっている。ライブに行きたい気持ちの方が強い」と明かした。
甲南大の園田寿名誉教授(刑法)の話「他人になりすましてチケットを使用する行為に詐欺罪が成立するのはもちろん、名義を貸す側もほう助罪に問われる可能性がある。犯罪であるとの意識なく、名義を貸し借りしている若者に対し、啓発が必要だ」