〈 江東区の小5男子を不登校に追い込んだイジメグループ「リョウジをぶっ飛ばす党」の“陰湿すぎる手口”とは デマで孤立させ、コメント欄を埋め尽くす荒らし投稿も… 〉から続く
江東区内の小学校に通っていたが、苛烈なイジメで不登校に追い込まれたリョウジくん。イジメの背景に、「リョウジをぶっ飛ばす党」(RB党)と呼ばれる組織があることをリョウジくんと母親が知ったのも4年生の頃だった。
「ママ友から『娘から、リョウジくんへのイジメがひどいことになっていると聞いた』と言われ、娘さんと電話で話して『ぶっ飛ばす党』のことを聞いたときは驚きました。3年生の頃から仲間外れなどの被害が悪化して、学校も『見守っている』とは言っていましたが状況が改善するどころか悪化し、恐ろしいグループまでできていたんです」(母親)
グループが作られたきっかけは、ある女子が「担任の先生をぶっ潰す党」を作ろうと言ったことが発端だという。このグループ自体はリョウジくんへのイジメとは関係なかったが、イジメのターゲットがリョウジくんに向いた時に「リョウジをぶっ飛ばす党」ができたという。
「打倒!リョウジ党には『スパイ係』『戦闘係』『情報係』『分析係』の4つの部門が…」
イジメグループは「打倒!リョウジ党」と呼ばれることもあったというが、その異様な組織について母親はこう語る。
「イジメの中心人物のAのほかに、グループには『スパイ係』『戦闘係』『情報係』『分析係』の4つの部門があり、そのリーダーは『四天王』と呼ばれていました。悪評を流す、直接叩くなどの担当があったようです。ママ友の娘さんもメンバーから『リョウジのことが好き?』と聞かれ、『好きでも嫌いでもない』と答えると、『好きじゃないなら入りなよ』と勧誘を受けていました。担任とリョウジ以外はほとんどがそのグループを知っていた、とも言っていました」
リョウジくんは休み時間などに、イジメの中心人物であるAの周りに多くの同級生が集まるのを何度も見たことがあった。
「何かグループがあるのは知っていましたが、自分をいじめる目的だとは思っていませんでした。『四天王』というのがいるとは聞いたんですが、まさかイジメそのものが目的だったなんて……」(リョウジくん)
「リョウジをぶっ飛ばす党」は、多くのクラスメイトに声をかけて勧誘していたようで、リョウジくんと仲の良い子を狙うような動きが見られたのは、党ができる前の3年生の頃だという。学校がイジメと認定した直後、Aはリョウジくんを孤立させるように、リョウジくんの仲の良い子に対して、積極的に遊びに誘うようになりました。Aとの遊びを避けていたリョウジくんはクラスメイトとは遊べなくなった。そしてグループが作られると、事実と反する噂が流されていた。
「『リョウジが道端でうんこしていた』とか『階段から誰かを突き飛ばして怪我させた』といった悪い噂を流して、それを信じた他の子どもがリョウジを非難したり、無視したりしたんです。極めて陰湿なイジメだと感じました。リョウジがうつ状態や最悪は自殺に追い込まれていてもおかしくなかったと思います」(母親)
そして嘘の噂を気にしない子には圧力をかけるなど、「リョウジをぶっ飛ばす党」の手法は硬軟とりまぜた精緻なものだった。
「リョウジと仲良くするなら抜けてくれ」と他の子にも圧力を
「グループに入った後に違和感を持った子は『リョウジと仲良くするならグループから抜けてくれ』とプレッシャーをかけられ、息子へのイジメを見て見ぬふりをした児童もいたようです。Aが塾へ行っていない日には他の子と一緒に遊べるのですが、Aが公園にいるとリョウジは『帰れ』と、遊んでいる子に言われたこともあったんです。後に、『四天王』の1人の証言では『グループを抜けたら自分もいじめられる』と恐れていたようです」(母親)
グループの活動が学校内での教師たちの監視の目をかいくぐったのにも理由がある。
「Aは教室内など、先生もいる前で『RB党に入りたい人~!』とクラス全体に『リョウジをぶっ飛ばす党』への勧誘をしていたそうです。ただしAは非常に狡猾で、先生に聞かれてはまずい話題は校門を出てから話していたようだ、と証言してくれた女子もいました」(母親)
母親は「リョウジをぶっ飛ばす党」の存在にショックを受け、すぐに学校に伝えた。学校も担任もそこでようやくグループの存在を把握し、クラス全員への聞き取り調査が開始された。子どもによっては1時間以上かかり、泣いてしまったり、授業中や給食時間に1人ずつ呼ばれるなどの異様な状況が続いたという。
「リョウジはまだ学校に通っていましたが、休み時間や授業中に1人ずつ呼ばれて、聞き取りが行われました。泣きじゃくる女子児童もいたそうで、息子に対して『リョウジのせいでこうなった』と言う子もいました。リョウジも『先生が知ったところで、何も良くならないじゃないか』と諦めのような発言が増え、『もう学校に行きたくない』と学校を休むようになりました」(同前)
調査後に学校側が出してきた提案は「クラスで話し合って謝罪させる。それしか学校ができることはない」というものだった。いわゆる「謝罪の会」だが保護者の立会はできず、「謝ったということになれば、息子はそれを受け入れるしかなくなる」と思い拒否をしたという。
「小学校の先生は信用できないのでちゃんとした私立に行きたいと思いました」
イジメについて担任から関係した児童の保護者に連絡があったが、「リョウジをぶっ飛ばす党」の存在については伝えられなかったという。
リョウジくんはその後も母親に送り迎えをしてもらうなどしてなんとか登校を続けたが、5年生の6月以降は下痢や腹痛を頻繁に訴えて登校できなくなった。
「勉強は塾ですればいいし、嫌な目にあってまで学校に行く意味がないと思っていました。わからないところはお父さんやお母さんに聞けばいいし、小学校の先生は信用できないのでちゃんとした別の私立の学校に行きたいと思いました」(リョウジくん)
しかし5年生の12月頃、イジメの調査なども影響したのか、主犯格だったAが転校していった。
「お前のせいで、俺がイジメをしてるって言われている」と逆ギレ
「逃げられたと思いました。先生は『Aがイジメの主犯だとAの親にも伝えた』と言っていましたが、AもAの親も一度も謝ってはくれませんでした。それどころか、塾の帰りにAから『お前のせいで、俺がイジメをしてるって言われている』と文句を言われたこともあります。Aの親が謝らないことには驚きましたが、Aについては『まあ、Aらしいな』とも思いました」(リョウジくん)
リョウジくんは徐々に、学校への不信感も強く持つようになっていた。
「最初にイジメの相談をした時に担任から『リョウジくんにも問題があるんじゃない?』と言われたので、僕からは何も言えなくなりました。口では『イジメは絶対に許さない』と言っていても、ちゃんと調べようとせず、大ごとにしたくないんだろうなと思いました。担任が僕に直接、状況や気持ちを聞いてくれたことはありませんでしたし。こんな無責任な人たちが先生として子どもの前に立っているのは、おかしいと感じています」(リョウジくん)
母親はAに対して当初は強い怒りを抱いていたが、徐々に感情が変化していったという。
「息子がAと仲が良かったころ、Aは私にもよく話しかけてきて、自分が仲間外れにしている子の悪口をよく言っていました。理由を聞くといつも、『自分は何もしていないのに、相手が○○してきたから…』と言っていたのを覚えています。
グループの存在を知らされた直後は、Aに対して『許せない』という強い怒りが込み上げてきました。けれど、夫に『それでもAもまだ子どもだから、子どもを責めるのは違う』と諭され、私自身も次第にそう考えるようになりました。問題は、Aを取り巻く大人たちの関わり方にあるのではないかと感じています」
リョウジくんが登校しなくなってからも学校や教育委員会とのやりとりは続き、それも家族に大きな負担となっていた。
「いじめ重大事態」に認定されたのはリョウジくんが4年生だった3月末。ただし、設置された調査委員会のメンバーの中立公平性に問題を感じた母親が抗議し、約半年後にようやく第三者を含む調査委員会が設置された。
その時点でも調査対象となる利害関係者2名(区の教育委員会の担当者と、助言を行ったスクールロイヤー)がメンバーに選任されており母親は再び抗議したが、調査は続行された。大半の調査が終了した後にようやく一部の担当者は解任されたという。
「そのほかにも、いじめ防止対策推進法で義務づけられた対応がなされず、何度も指摘しても改善されなかったんです」(母親)
調査開始から1年10カ月後に送られてきた中間報告も、納得のいくものではなかった。
「入学年度やクラス構成が異なって記載されているなど、客観的な資料を確認していないことは明白でした。また、加害者の取り違えといった重大な誤認も含まれていたんです。おそらく、教員や加害児童の記憶に頼った証言だけを事実として認定したんだと思います」(母親)
メンバーが首謀者以外明示されない、不十分な報告書
母親は、中間報告書の内容にリョウジくんの証言や提出した資料を反映すべきだと意見を提出し、卒業して1年後に最終報告書が完成した。しかし「リョウジをぶっ飛ばす党」のメンバーはA以外は明示されていないなど、不満はまだ大きいという。
「調査委は中立公平と言われるが、結局、区教委が設置するため独立性がない。いじめ防対法には罰則規定がなく、たとえ違反しても、マスコミなどの外部からの圧力がなければ、誰からも問責されないのが現状です。最終報告で学校の対応の問題点が指摘されたのはよかったと思いますが、あくまで学校側の対応のみで、区教委の対応は特に指摘されていません。調査報告書に対して指摘するときにママ友との日々のLINEでの情報共有が大きな助けになりました。あれがなかったらと思うと、本当にゾッとします」
リョウジくんはその後、「リョウジをぶっ飛ばす党」に入っていた子と同じ中学校への進学を避けるために都外の私立中学校に進学し、家族も引っ越しをした。イジメの被害にあった側に大きな負担がかかる状況はまだ改善されていない。
(渋井 哲也)